松本零士さんの訃報を知りました。亡くなられたのは2023年2月13日、85歳とのこと。お悔やみ申し上げます。
『宇宙戦艦ヤマト』、『銀河鉄道999』など壮大なSF漫画、アニメで知られます。私もよくテレビ放映を観ていました。また映画版を映画館で観ました。高校時代にはアニメ映画『1000年女王』も観ました。そうした作品については多くの人が話題にあげることと思いますが、ここでは漫画『男おいどん』について触れることにします。中学生で知った漫画でした。
ジョージ・ルーカス監督作品と言えば誰もが『スターウォーズ』をあげるでしょう。でも、『アメリカン・グラフティ』も忘れて欲しくない作品です。1960年代のアメリカ高校生の生活を描きます。人生の岐路に立つ若者の姿を、ルーカス自身の体験も織り交ぜた青春ドラマ。中学時代にテレビ放映で観て、憧れの高校生、青春時代として記憶に残っています。
『男おいどん』もそうした青春時代を描いています。こちらも、松本零士さんの浪人生活がベースとなっているそうです。ただし、憧れとは真逆の方向。1970年代の東京で、極貧の浪人生のアパート暮らしが描かれています。狭い4畳半の部屋の一人暮らしです。作品について、松本零士さんは「まさに男たるものの極限を体験した時代であったと述懐」( 男おいどん - Wikipedia より)していたとのこと。
「貧しくも概ね正直に浪人生活を送り続けるチビでガニ股・ド近眼・醜男・サルマタ怪人とまで呼ばれる大山昇太」(同)の極貧の生活は悲惨です。不衛生で押し入れに洗濯していないパンツ(別名さるまた:トランクス系)が山のように押し込められ、雨が続くとサルマタケと命名されたキノコが生えてくる始末。それさえも食用にする貧しさです。
記憶に鮮明なのは、主人公のごちそうが「ラーメン・ライス」であったこと。たまに手に入るバイト代などの収入で、美味しそうに食べるシーンがあります。「ラーメン・餃子」ならまだしも、ライスなのです。当時の私には食事の量と値段が重要と理解できず、不思議でした。
ある時から、謎の鳥「トリさん」と一緒に暮らすことになります。ただし、一緒に暮らす動機は、いざとなったときの食料にするというものでした。
でも、主人公と仲睦まじいというか、腐れ縁というか。寂しさを癒したり、共感したり、そっと話しかけられたり。ときには、サルマタケの奪い合いをしたり、「食うど」と脅されたりしますが、離れることなく暮らし続けます。恐らく、このキャラクターの登場が無ければ、連載も短く終わったのではと思うくらい、主人公の心のよりどころになっています。切なさや厳しさと同時に暖かさや優しさが混じっていて、不思議な関係です。井伏鱒二の『山椒魚』の山椒魚と蛙の関係にも通じる気がします。
実は、中学時代、受験勉強中によく「トリさん」をノートに描いて、学習のポイントを吹き出しにして補足していました。当時、ニワトリを飼っていたこともあって、親近感があったのかも知れません。(詳しい記事はこちら)
『男おいどん』の主人公の生活に憧れたわけではありませんが、浪人生活も悪くないと思ったのは確かです。極貧の生活でも、前向きに生きることはできるとも。私が一番経済的に厳しかった頃も、『男おいどん』に比べれば、まだ大丈夫なんて思っていましたから。『宇宙戦艦ヤマト』、『銀河鉄道999』を描いた人の極貧生活の漫画は、私の励みにもなりました。
「 トリさん - Wikipedia 」には、「最後に大山昇太が去ったあとの四畳半で、残されたトリさんは涙を流す。しかし続編の短編SFでは、その四畳半で大繁殖して大山昇太の子孫を待ち受けていた。」と書かれています。
松本零士さんが去ったこの世でトリさんは涙を流しているのでしょうか。
或いは、先にあちらの世で松本零士さんを待ち受けていたのでしょうか。
どちらもありそうな気がします。どちらでもあって欲しいと思います。
今なお、松本零士さんとトリさんが寄り添える関係である事を願っています。
松本零士さん、素敵な作品群をありがとうございました。
安らかにお眠りください。