人工知能、AIとは?
「マッチ箱AI」や「考えるマッチ箱」という言葉をご存じでしょうか。
コンピュータ等の電子機器ではなく、マッチ箱とビーズ(くじ)で作るAIです。
AIは人工知能とも呼ばれますが、「知能」の定義が明確ではないため、「人工知能」の定義も明確にはなっていません。ですから、マッチ箱AIが果たして人工知能と言えるのかと疑問を持つ人もいると思います。
マッチ箱AIは、高校時代に読んだ科学雑誌に紹介されていました。「三目並べ」(漢字の井に似た9マス枠を描き、先手、後手が入れ替わりに印を入れ、タテ、ヨコ、ナナメのいずれかで同じ印を3つ並べられると勝ち)で負けない方法をマッチ箱でも学習できるという話でした。
マッチ箱AIの作り方や手法から、「人工知能」や「知能」を探る手掛かりになりそうな気がして、強く興味を持ったものの、当時はあまり理解できていませんでした。でも、このブログでAIの記事を書くと決めた時、いつか取り上げたいと決めていました。
「三目並べ」のマッチ箱AIに必要なマッチ箱
実際にマッチ箱AIをきちんと作るには、大変な手間とスペースが必要です。ちょいと作ってみようか、といった気持ちで作るのは無理です。ですから、この記事もマッチ箱AIを作ったつもりで書いています。ご了承ください。
<マッチ箱AIを作るために必要なマッチ箱数が気になる人はここをクリック>
ちなみに、一般のマッチ箱AIは、マッチ箱の中にカラービーズが入っていて、目を閉じて一つ取り出すというスタイルです。ビーズは9色。赤はAのマス、橙はB、黄はCという風に、9つのマスの位置と対応しています。実際にくじを作るのは大変ですから、ビーズの方が効率的と言えます。
ただ、この記事では意図的に手を選べそうなイメージを排し、「くじ」としました。運によって手が決まる中で「知能」は成立するか?が一番の関心事です。
マッチ箱AIで、できること
まずは、「三目並べ」の実践例から。
- 3×3の枠を作成。
- 人間が先手(○)、マッチ箱AIが後手(×)とします。(後の説明のためA~Iの記号を記入)
- 1手目、人間が選べるのは、A~I の9マスのいずれかです。ここでは、Dを選んだとして○をつけます。
- 2手目にAIがGを選んだとして×をつけます。
- 3手目に人間がEを選んで○をつけた局面です。
までをGIFアニメにしました。※ 進めた手に2秒間黄色の■を表示しています。
この局面(1手目から順にDGEと進んだ場合)、AIはF(紫マス)を選ばないと負けてしまいます。先手がFに○を入れると、DEFで三目並びになります。
A・B・C・H・I(灰色マス)を選ぶと負けが確定です。ここでFを選択すればひとまず負けを回避できるので、思考が一つできたといえるでしょう。マッチ箱AIは、それを可能にする方法です。
マッチ箱AIで再現
ここまでの流れをマッチ箱とくじで再現してみましょう。
1手目(人間)
1手目、人間が選択できるのはA~Iの9マスです。人間同士なら好きなところに○を描いて相手番にすればいいですが、AI相手の場合、AIに手を伝えなければゲームが成立しません。
マッチ箱で手を伝える方法
どの手を選んだのかがわかるラベルを各マッチ箱に貼り付けて並べます。マッチ箱の中には、ラベルの○がついた場所を除く8枚のくじが入っています。Aの箱にはAを除いたB~Iの8枚、Bの箱には、Bを除いたAとC~Iの8枚のくじが入っている仕組みです。
先の例では1手目にDを選びました。そこで、Dが○になっているマッチ箱をAIに渡すことで、人間の手が伝わるとします。
高校生の時は、この作業の意味がよくわかっていませんでした。今思えば、マッチ箱が9個あるのをマッチ箱AIが9個あるようなイメージになってしまったのではと思います。今回、イメージしやすくするためにキャラクター化してみました。
マッチ箱AIの一番重要な仕事は、渡されたマッチ箱のくじを引くことです。
自分でマッチ箱やくじを用意する力はありません。人間が局面に応じたマッチ箱とくじを用意しないといけないのです。こんなことで、マッチ箱が知能を持ち、思考ができるようになるのでしょうか?この疑問は、多くの人が持つようです。私もそうでした。
2手目(AI)
2手目用のマッチ箱準備
2手目、AIの選択肢はA・B・C・E・F・G・H・Iの8つです。
これに応じて、2手目用のマッチ箱8個を用意します。
この場合、各マッチ箱には初手のDと2手目×のついた箇所を除く7枚のくじが入っています。
Aの箱には、B・C・E・F・G・H・Iの7枚、
Bの箱には、A・C・E・F・G・H・Iの7枚という仕組みです。
8個のどれを選ぶかはくじで決める
8個の箱のどれを選ぶかは、1手目で渡されたマッチ箱を開けてくじを引くところから始まります。
Dが○になっているマッチ箱には、Dを除く、A・B・C・E・F・G・H・Iのどれかを書いた8枚のくじが入っています。そこからくじを1枚引いて、×を書き込む場所を決定します。
上の例では2手目にGだったので、Gと書かれたくじを引いたとします。
これで2手目用のマッチ箱から、Gが×になっている箱を選ぶことが決定しました。
人間にGのマッチ箱を渡します。
これで、2手目が終了しました。
3手目(人間)
3手目は、既に印のあるDとGは除外され、選択肢は7つ。
これをマッチ箱で伝えるために、新たにラベルを張ったマッチ箱を用意します。DとG以外の場所にマッチ箱が7個です。
それぞれの箱には印のついた場所を除く6つのくじが入っています。
Aに○がついた箱には、B・C・E・F・H・Iの6枚のくじ、
Eに○がついた箱には、A・B・C・F・H・Iの6枚のくじ
が入っている仕組みです。
上の例では3手目がEだったので、Eに○がついた箱をAIに渡します。
4手目(AI)
4手目用のマッチ箱準備
4手目、AIの選択肢はA・B・C・F・H・Iの6つです。
これに応じて、4手目用のマッチ箱6個を用意します。
マッチ箱にはDGEと×のついた箇所を除く5枚のくじが入っています。
Aの箱には、B・C・F・H・Iの5枚、
Bの箱には、A・C・F・H・Iの5枚という仕組みです。
6個のどれを選ぶかはくじで決める
6個の内どれを選ぶかは、3手目でAIに渡したEのマッチ箱のくじを引くところから始まります。
命運を分けるくじです。
くじ結果がA・B・C・H・Iのどれかだった場合、先手(人間)がFに○印をつければ○が3つ並び、AIの負けが確定されます。何とかしてこの場面で、A・B・C・H・Iを選ばず、Fを選ぶ方法を見つけないといけません。
どんな学習をすれば、マッチ箱AIはFの手を選べるようになるでしょうか?
というところで、今回はここまで。
次回に続きます。
「マッチ箱AIが人工知能と言えるのか」との疑問にきちんと回答できるかどうか自信はありませんが、「知能とは何か?」を考える契機になればいいなと思っています。
これまでのAI考(1~4)
AI考(4) AIと人間性と多様性、そして高校生の体験記『聾者は障害者か?』
あと、-3記事。
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<余談 知能とは何か?>
マッチ箱AIと「三目並べ」について書いてきましたが、今回の記事では、マッチ箱AIは知能と呼べそうなものをまだ何も得ていません。2手目を決定するマッチ箱くじを引き、3手目を知らせるマッチ箱を渡されただけです。この後、訳が分からないまま、4手目を決める3手目のマッチ箱のくじを引かなければいけません。
何もわからない状態で何かの情報を得ても、その活かし方は不明なままです。でも、何かの情報に触れることが知能の始まりという気はします。情報を意識するかどうかに関係なく、無視するか、何かの対応をするか、その選択を迫られます。無視すれば、情報を得ていないのと同じようですが、後に無視していたと気づいたときの対応が違ってくると思います。
生まれて間もない赤ちゃんはまだ言葉を知らないのだから、話しかけるのは無駄でしょうか?そんなことはありません。話しかけられる赤ちゃんは、意味が分からなくても言葉の存在に触れる機会を得られます。それが、言葉の意味がわかる以上に大事なことだと思うのです。
最初は何かの音がしているというくらいの認識かもしれません。でも、何百回、何千回とその音を繰り返して聞く内、その音が聞こえてくると、必ず誰かが近くにいると気づくようになるでしょう。そうして、その音がする方向を意識するようになるでしょう。ただし、その音に何の意味があるのかは不明なまま。でも、その音は確かに他の音と違って、はるかによく耳にすると気づくようになっていきます。普段からずっと話しかけているからこそ、気づけることだろうと思います。
ある時、その音がした方向に顔を向けました。すると、それだけで周りがちょっと楽しそうなにぎやかさになりました。顔を向けずにいると、にぎやかになりません。それに気づいてからは、その音がする度に顔を向け、楽しげなにぎやかさを聞きたいと思うようになります。その音を聞いたら顔を向けるのが当たり前になった頃、その音を違う響きで聞くこともぐんと増えていきます。ある響きが一番多いのは変わりませんが、その音はいろんな響き方をすると気づきます。
赤ちゃんは、まだその音にどんな意味があるのかわかりません。ただ、その音がする方向に顔を向けると楽しそうな雰囲気になるのが好きなだけです。
でも、その様子を見ていた大人たちは、こんな話をしているのです。
「ほんとだ。自分の名前がわかるようになってる。すごい!」
上の話は、勝手な想像です。でも言葉の存在に気づくには、やはりたくさんの言葉を聞くことが大事。ある反応で何かが変わると気づくには、やはり何度も同じ反応をすることが大事。だからと言って執拗に言葉を聞かせよう、反応させようと意識するのは違う気がします。飽くほどの日常が繰り返される中で、何かに気づけることが大事だと思うのです。一方で、日常とは何かと聞かれると、返答に窮するのですけど。
AIの話で赤ちゃんの例を出すのに違和感を持つ人がいるかも知れません。たとえまだ何も知らない人間だとしても、機械と同列に知能を考えるのは無理があるだろうと。でも、知能は賢い人間だけに備わっているものではありません。生まれたての赤ちゃんにも、動物にも、その動物の赤ちゃんにも、昆虫にも、その幼虫にもあると思います。
もっといえば、一つの仮説を私は持っています。自然現象も知能が働いているのではないか?ということです。生命を持たないAIを人工知能と呼ぶのなら、自然の現象を自然知能と呼んでもいいのではないかと思うほどです。このことについては、別の機会にもう少し詳しく触れるつもりです。