tn198403s 高校時代blog

「人生に無意味な時間は無い。ただ、その時間の意味を感じることなく生きているだけである。」この言葉を確かめてみようと、徒然なるまま、私の高校時代(1984.03卒業)の意味を振り返り綴るブログです。

ショートショート 変わったスプーン(2)パズル

そのスプーンは変わっていた。

ネットオークションでは「一見、何の変哲もないスプーンですが、使った者にしかわからない魅力があります。」と説明されていた。送料込みで300円ならと、興味本位でポチっと購入したのだ。

 

スプーンは木箱に収められていた。そっと蓋を開け、赤い布を取ると銀色のスプーンが顔を出す。

変わったスプーン(2)パズル

光の反射はきれいだが、どう見ても普通の金属スプーンだ。手に持っていろんな角度から眺めてみたが、特段変わった風には見えない。

 

不意に救急車のサイレンが響く。近くで、事故でもあったろうか。窓から回転灯の灯が差し込む。家の方に近づいているらしかった。

 

手にしたスプーンをもう一度見る。やはりどう見ても変わってる風には見えない。「騙されたのかも。300円だしな。」とぼやきつつ、「強度はどうだ?」と柄の部分を少し捩じってみる。その瞬間、「あ、しまった!!」と大きな声が出た。食卓の上でスプーンがバラバラになったのだ。

 

驚いたのは確かだが、大声になったのは救急車の赤い光のせいだろうか。一瞬、とんでもない事件が起きた気になったものの、冷静になって見るとスプーン以外は、何の変化も無かった。意外にもろいんだなと思ったが、よく見ると一つ一つが作り込まれた部品のようにも見える。数えてみると、その数20片。


更には、どのピースも、元のスプーンの曲線を残しているようだ。
「これ、立体パズルじゃないか?」
ピースの曲線を見極めて、それらしいもの同士を合わせてみると、カチャリと澄んだ金属音を立てて、二つのピースはくっついた。まるで最初から1片のピースだったかのように、接合部分は見当たらないし、二つは離れない。


「凄いぞ、これ。ずいぶん精密な立体パズルなんだ。」
興奮して、意欲満々。完成させるのに夢中になった。
カチャ、カチャリ。カチャ、カチャリ。
20片あったパーツは、あっという間に残り5片になった。どれもが、曲線を持つ金属特有の光の反射をして輝いている。何だか自分も輝いている気がしてきた。完成させて学校で友だちに見せれば、誰もが驚くに違いない。心が躍った。

 

しかし、そこから先に進まない。パーツの断面を見ると微妙に凹凸があり、上から引っかける、或いは下から押し上げる等、組み合わせる順序が違えば、きちんと合わないようだ。

「これは思った以上に大変だ。」
残った5片を、再び捩じると、魔法のごとくバラバラになった。
「やり直そう。」

結局、その夜には完成できなかった。

 

「おい、B。授業中にその大あくびは、さすがに失礼だろう。」

数学教師に注意されてしまった。慌てて口を手で隠す。教室に笑いが広がる。

「おお~!あくB~!」

誰かがからかう。更に笑いが広がった。

 

帰宅後、食事もそこそこにパズルに挑戦した。残り3片までにできたが、そこから進まない。あきらめては捩じり、崩してからやり直す。

カチャ、カチャリ。カチャカチャ、カチャリ。

そう、最初の内は次々と合わさるのだ。しかし、完成には至らない。

 

1週間が経った。

カチャ、カチャリ、カチャン。

「おぉ!!できた!ついにできた!」

完成した。どこをどう合わせたのかよくわからないが、目の前には元の姿のスプーンが光っていた。達成感に満たされた。

 

しかし、今再び崩したら、すぐには元に戻せないだろう。明日学校で、みんなの目の前で崩すことに決め、スプーンを木箱に戻した。

 

翌日の休み時間、意気揚々と木箱を開け、布を取り、スプーンを友だちに見せたが、みな、きょとんとしている。柄を捩じろうにも、硬くて捩じられず、分解もできない。当然、誰もBの話を信じてくれない。

 

「本当なんだって。このスプーンは高性能の立体パズルなんだって!」

「嘘だろ。こんなのどう見たって普通のスプーンじゃないか。」

「つなぎ目も見えない、分解もできないのに、信じるのは無理。」

Bの周りで皆がワイワイやっている間にチャイムが鳴り、数学教師が来た。

 

「ほらほら、もうチャイムは鳴ったぞ。席に着け。」

「先生、Bが高性能の立体パズルだってスプーン持ってきてるんです。」

「おい、告げ口するなよ。」

「おもちゃ、持ってくるのは校則違反ですよね。」

明らかに授業の時間潰しに言っているのだと勘づいた教師は、確かめに来た。

「これです、これ。」と一人が木箱ごと教師に渡す。

「やめろって!」とB。

 

「お!箱付き、布付きじゃないか!これは、もしかするんじゃないか?確かめてみよう。」

数学教師の思いもよらぬ言葉に、教室の空気は一変した。教室の端にいた生徒も寄って来た。誰もが興味津々になった。

 

机の上にスプーンを置き、その上に赤い布をかぶせ、スマホのライトを浴びせてから、先生がスプーンを軽く捩じる。一瞬にして、スプーンは20片のピースになった。

「最初は赤い光に当てて、捩じればいい。本物だったな。」

 

 

 

「変わったスプーン(3)お喋り」はこちら。

『変わったスプーン』の説明とまとめ はこちら

 

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