暑い。
とだけ書かれた文字を見て、どれだけ暑さを感じることができるだろうか。暑さの程を伝えたくていろんな形容で表現することもあるだろう。例えば、うだるような暑さ、肌がじりじり焼けそう、汗でべたべた、まるでサウナ、火がつくかと思うほど…等々。或いは「暑い」を連呼する回数で表現する人もいそうだ。
でも、「真夏の丑三つ刻(うしみつどき)」ほど暑さを上手く表現した言葉を私は知らない。中学の国語の授業で知った。「草木も眠る丑三つ刻」とは、木や草までもが眠りに入った夜(午前2時過ぎ)の静けさを表現した言葉だ。それを、何もかもが暑さに焼け死んでぴくりとも動けない夏の真昼に当てはめたのが「真夏の丑三つ刻」らしかった。本にあるのを先生が読んで聞かせてくれた。
画像引用元
うしみつ(丑三つ)時 | THE SEIKO MUSEUM GINZA セイコーミュージアム 銀座
元の文章はよく憶えていないが、「『暑い』と言葉にも出せず、全てが打ちのめされた暑さとは、こんな状態だと思う」といった主旨の説明と共に、「真夏の丑三つ刻」という言葉は強烈に記憶に残った。
その後、幾度となく自分勝手な解釈で「真夏の丑三つ刻」を体験した。
「真夏のサッカークラブの練習の後、昼食を食べ、練習再開までごろりと横になっていた時」
「サイクリングに出かけ、きつい坂道を上り切った陰で横になり、目を覆うとした腕に乾いた汗の塩粒を認めた記憶」
「旅行先で炎天下を歩き通して博物館に到着。水を飲んで椅子に座ると同時に意識が遠のいた経験」
どれもみな意識と眠気が混在する中で、これも真夏の丑三つ刻かな?なんて考えていた。実際に静かだったか不明ながら、その一瞬は無音に感じた。否、音ばかりではない。目を開けていたのか閉じていたのか、何もかもが白く見え、暑さや喉の渇き、汗の匂い等、五感の全てが鈍くなった気がする。もしかしたら、熱中症(当時は一般に熱射病と呼んでいた)になりかけていたのかも知れないが、心地良さもあったから違うだろう。
ここ連日の暑さの報道でそんなことを思い出し、ネットで「真夏の丑三つ刻」を検索した。あるブログで井上靖の随筆『幼き日のこと』に書かれていた言葉だと知る。一方、井上靖の「真昼のうしみつ刻」として紹介しているサイトもあった。
紹介された文章を読んでみると記憶と重なる部分はあるのだが、どこかイメージと符合しない感じがする。うむ、これは本を手に取り、きちんと文章を確かめた方が良いかも知れない。夏休みの宿題としよう。ただし、いつの夏休みなのかは不明ってことにしておく。
ちなみに、こうした中で思いついた「五感を狂わせる暑さ」との表現は、結構お気に入りだ。