tn198403s 高校時代blog

「人生に無意味な時間は無い。ただ、その時間の意味を感じることなく生きているだけである。」この言葉を確かめてみようと、徒然なるまま、私の高校時代(1984.03卒業)の意味を振り返り綴るブログです。

映画30.『カメラを止めるな!』とB級映画

『カメラを止めるな!』(2017年製作、2018年全国公開)

待ちかねた鑑賞機会

鑑賞前に私が知っていたのは、流行語大賞の候補になったことや、口コミで上映館が拡大したこと、インディーズ映画でホラー系コメディらしいこと、「この映画は二度始まる」のキャッチコピーくらいのものでした。近くの映画館での上映予定がないまま、ネタバレ情報を避けながら鑑賞の機会を待ち続けました。

 

そのため、映画の前半37分が終わった時点のエンドロールに少し焦りました。演技は決して上手いとは言えないと思いました。不自然な演技が幾つもあったことや、ちゃちに思えた小道具、ストーリーが途中でころころ変わるような違和感…。このまま終わればインディーズ映画の限界かと落胆しそうなところでしたが、「この映画は二度始まる」と知っていたので、席を立たずにすみました。もし、何も知らずにネット配信で観ていたら、そこで視聴をやめたかも知れません。

カメラを止めるな ポスターイメージ

大ヒットの経緯

略称『カメ止め』は、日本映画史上でも稀な口コミで大ヒットした作品です。2017年にイベントの参加作品として6日間限定で単館上映されました。その後2018年6月に、2つの映画館で単独劇場公開されます。

 

公開当初の配給は製作元のENBUゼミナールでしたが、SNS上で評判が広がり、アスミック・エースとの共同配給になり全国上映へ。8月以降、順次100館以上での上映拡大が行われ、累計上映館数は8月下旬時点で200館以上、10月上旬時点では300館以上、最終的には353館となり、観客動員数は222万人に達しました。

 

地方に住む私が観たのは、一般の映画館ではなく1日限定でホールを借りての上映でした。映画館で通常の上映ができなかったのは、限られたスクリーン数や、集客数の見込みが立ちにくいなど、地方の要因もあったのでしょう。

 

ストーリーとレビュー

ストーリー

恐ろしい伝説のある廃墟でゾンビドラマを撮影中、クライマックスシーンに難航し、撮り直しが繰り返される。本物の恐怖を要求する監督の苛立ちは常軌を逸し、現場には重苦しい雰囲気が漂う。気持ちを切り替えるため、一旦休憩を取ったものの、疲れを隠せない出演者達に次々と恐怖が襲いかかる…。

 

その後のストーリーを書くと重大なネタバレになるのでここでは伏せます。

<以下、ややネタバレ注意なレビュー>

<レビューを読むには、ここをクリック>

 

『カメラを止めるな!』とB級映画

A級映画の資格

『カメ止め』は、ホラー映画を標榜するコメディ映画です。上映時間は96分。

キャノンボール』(95分)とほぼ同じ長さ。以前の記事で、

キャノンボール』は、A級映画の枠を構えつつも、良作のB級映画になった。

としました。製作費もそれなりに高く、オールスター出演、上映も90分超えで大ヒット作(日本での興行収入21億円)になったのですから、A級映画の資格はあるでしょう。でも、映画のメッセージの薄さや笑いの軽さで、A級にしたくないと思ったのです。

 

一方、『カメ止め』は、興行収入31億円(2018年の邦画興行収入ランキング7位)、観客動員数220万人。映画のメッセージも、撮影現場の悲哀や、プロデューサーの理不尽、映画人家族の葛藤等を描き、映像作成の大変さと魅力が伝わってきます。笑いもストーリーにしっかり絡み、重要な伏線になったり、孤立する悲しみが伝わってきたり。結果と内容は十分A級の域にあると思います。ただ、製作費300万円で、無名に近い俳優や監督陣の起用等から、A級とするには無理があり過ぎると思いました。

 

結論として、『カメラを止めるな!』は奇跡のB級映画ととらえました。

 

一部の作品についてのみ、A級、B級にこだわりたくなるのは自分でも不思議ですが、B級にも名作があるとしたいのかも知れません。実は、しれっと現在の好きな映画10選に入れています。

好きな映画10選から外せない理由

現在の10選を再掲します。

1.七人の侍(1954年/日) 黒澤明

2.2001年宇宙の旅(1968年/米=英) スタンリー・キューブリック

3.ガンジー(1982年/英=インド) リチャード・アッテンボロー

4.東京物語(1953年/日) 小津安二郎

5.スター・ウォーズ(1977年/米) ジョージ・ルーカス

6.アナと雪の女王(2013年/米)クリス・バック ジェニファー・リー

7.U・ボート(1981年/独) ヴォルフガング・ペーターゼン

8.すばらしき世界(2021年/日)西川美和

9.ブリキの太鼓(1979/独=仏=ポーランド他) フォルカー・シュレンドルフ

10.カメラを止めるな!(2017年/日) 上田慎一郎

※ なお、1監督につき1作品に限定。

 

この中で『カメ止め』は異色です。それまで漠然とあった「大ヒットした作品はA級の仲間(一部作品を除く)」というイメージを吹き飛ばした作品です。加えて稀有な口コミでの上映拡大、意表を突く展開、観客の反応など、他の作品には無い要素もたくさん。なので、しばらくの間は外しようがありません。

 

尚、『興行収入 - Wikipedia』によると、大ヒットのイメージは

キネマ旬報によれば、1999年までは配給収入10億円以上が大ヒットの基準だったが近年では制作コストの増加により総興行収入10億円を最低ラインとし、総興行収入30億円以上が大ヒットの基準である。

となるようです。かなりざっくりしている感がありますが、ある種の目安程度に考えて良いと思います。

 

映画の製作費と興行収入

ハリウッド作品の場合

前回の記事で『プラトーン』の製作費600万ドル(現在の換算で約8億円)でB級映画なら、日本映画の多くの作品がB級映画になってしまうとの旨を書きました。

 

ネットで見かけた情報では、ハリウッド作品なら製作費30億円は普通という感じです。大作なら100億円を超えるのも珍しくありません。ハリウッド市場がどれだけ大きいか、垣間見えてくる話です。

 

ちなみに『プラトーン』の興行収入は1億3800万ドル(現在の換算で約186億円)で製作費の22倍。『ジョーズ』の制作費900万ドルで興行収入4億7651万ドルと50倍超えです。

 

日本映画の場合

製作費

日本映画の製作費は不明な部分も多いです。それを承知の上で、検索で見つけた情報を並べてみます。外国映画を除き、日本映画の興行収入順に製作費も紹介すると…

--- 2023年4月時点 ---

1位『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』(興行収入404億円:製作費20億円)

2位『千と千尋の神隠し』(興行収入316億円:製作費24億円)

5位『君の名は。』(興行収入251億円:製作費7.5億円)

7位『もののけ姫』(興行収入201億円:製作費24億円)

8位『ONE PIECE FILM RED』(興行収入197億円:製作費 不明)

9位『ハウルの動く城』(興行収入196億円:製作費24億円)

10位『踊る大捜査線 THE MOVIE2 レインボーブリッジを封鎖せよ!

興行収入173億円:製作費10億円)

 

日本映画の興行収入上位は、アニメ作品がずらり。それでもこの中で、製作費が30億を超えるものはありません。

 

ただ、製作費100億超えの大作もあるにはあります。フル3DCG映画『ファイナルファンタジー 』(2001年公開)は、ハリウッドと組んで、技術開発費込みの製作費が167億円の作品でした。ちなみに、日本での興行収入は約10億円とのこと。興行的には大失敗ですが、当時のフル3DCG映画は未知の世界だった上、高額な機器の性能が低かったことも影響したでしょう。後に、フル3DG映画は珍しくなっていきますが、その礎になったという話もあるようです。(本当かどうかは不明)

 

実写映画で製作費が30億円を超えた作品に限定すると、

1位 『クライシス2050』(日米合作) 70億円 興行収入14億円
2位 『20世紀少年』(全章総計) 60億円 興行収入(総計)110億円
3位 『天と地と』 50億円 興行収入92億円
3位 『落陽』 50億円 ※ 配給収入で5億円
5位 『敦煌』 45億円 興行収入82億円
6位 『GANTZ』(2作合計)40億円 興行収入 62億円

 

製作費と興行収入で見れば、『踊る大捜査線 THE MOVIE2 』の製作費10億円で興行収入173億円と17倍ですから、コスパの高さが光ります。とは言え、『カメ止め』は驚異の1000倍!

B面映画

ハリウッドに比べ製作費が低い日本では「B級映画」の概念はなかったとも言われます。ただ、1950年代に二本立て興業が始まってから、「B面映画」なる呼称が生まれました。上映される二本の内どちらがメインになのかを示すためでした。例えば、『探偵物語』(主演:薬師丸ひろ子)と『時をかける少女』(主演:原田知世)の二本立て興業では、A面が『探偵物語』、B面が『時をかける少女』です。以前、記事にしたように

公開当初、『探偵物語』目当ての観客の方が多かったかもしれませんが、鑑賞後、印象に残ったのは『時をかける少女』とした人も多かったように思います。

B面映画だから、A面映画に劣るということではありません。

A級B級の評価

上述の背景を踏まえつつも、日本でも一般にB級と呼ばれる作品はあります。ただし、明確な基準は無く、漠然とした費用や、キャスト、上映時間、上映規模、興行収入等のイメージから来ているようです。『カメラを止めるな!』が興行収入31億円、観客動員数220万人なのでA級の仲間入りとする人もいるようです。一方で、私のように製作費300万円で、無名に近い俳優や監督陣の起用等からB級とする人もいるでしょう。

 

そこは、個人の判断に任せて良いと思います。人によってはA級からZ級まで分ける場合もあるかも知れません。それも、映画の楽しみ方の一つ。映画の評価は、作品の数だけ、観る人の数だけ、観た機会の数だけ、あっていいと思いますから。

 

※『カメラを止めるな!』は、高校時代に観た映画ではありません。でも、高校時代にA級、B級映画を考えた経験と繋がるため、「高校時代の映画」カテゴリーに含めました。