tn198403s 高校時代blog

「人生に無意味な時間は無い。ただ、その時間の意味を感じることなく生きているだけである。」この言葉を確かめてみようと、徒然なるまま、私の高校時代(1984.03卒業)の意味を振り返り綴るブログです。

音楽34.『さよならマエストロ』、第3話で「田園」の魔法に震えました。

クラシック音楽を聴いて、これほど心を震わされるとは思っていませんでした。

といっても、実際にコンサートや楽曲で全曲を聞いたわけではありません。日曜劇場『さよならマエストロ~父と私のアパッシオナート~』の仕業です。このドラマは各話ごとに取り上げる曲があるようで、1月28日に放送された第3話は、ベートーベン(先生)の交響曲第6番「田園」でした。

クラシック音楽との出会い

「運命」の常識

『さよならマエストロ』の第1話で取り上げられたのはベートーベンの「運命」でした。あ~やっぱり、ベートーベンと言えば「運命」だよなぁと、順当な選曲だと思いました。クラシック音楽=ベートーベン=運命という図式はとてもわかりやすいと思うからです。

 

私も高校時代に「田園」を知る前はそんなイメージでした。ベートーベンで知っていたのは「運命」と第九くらいなもの。高校の授業では音楽ではなく美術を選択したので、クラシック音楽との関わりも知識もイメージも、本当に微々たるものでした。

 

私のクラシック音楽の原点

1982年3月(高1の終わり)にステレオセットを買ってもらって、音質の良いFMラジオのステレオ放送をよく聞くようになりました。当時、FMラジオと言えばNHKしかなかったのも幸いしたのでしょう。勉強するとき、よくつけっ放しでBGMとして聞き流していました。NHK-FMラジオ番組「FMクラシック・アワー」も例に漏れず、自然とクラシック音楽も聞くようになりました。

 

そして、ベートーベンの交響曲第6番「田園」を知ります。

この後、クラシック音楽を意識的に”聴く”ようになっていきました。私のクラシック音楽の原点が「田園」と言っても過言ではありません。そのせいでしょうか、『さよならマエストロ』の第3話で流れた「田園」から、当時のことをたくさん思い出したのです。

 

高校時代のクラシック音楽

教育テレビ『YOU』

高校時代、クラシック音楽が好きなことは隠した方が良いとの思い込みがありました。その思いを少し変えてくれたのが、教育テレビの若者向けの番組『YOU』でした。

(『YOU』の記事はこちら↓)

クラシック音楽を取り上げた回で、同年代にもラシック好きが他にもいること、指揮の真似をして楽しむ人も結構いたこと、普段、周囲の人にクラシックの話をできずにいること等、同じ思いをもっている人がいるとわかりました。少し救われた感があったのを憶えています。

 

松田聖子の『ハートをRock』

でも、クラシック好きなことは誰にも言いませんでした。松田聖子の『ハートをRock』(1983年)にこんな歌詞があります。

あなたに誘われた コンサート それもクラシック
まぶたを閉じないで 眠るコツ 発見しそうよ

クラシックはつまらないのかと、17歳の少年は少なからず戸惑いました。でも、受験生に恋は不要だと粋がっていました。

 

孤独なクラシック音楽

高校時代、友人と歌謡曲の話をした記憶は幾らもありますが、クラシック音楽の話をした記憶はほとんどありません。あるのは、映画『2001年宇宙の旅』で使われた楽曲くらい。ベートーベンも、モーツアルトも、バッハも素敵な楽曲を聴かせてくれましたが、その話を誰にもできずにいました。

 

そんなことがじんわりと思い出されたのです。

 

第3話、「田園」の魔法

<注意!> 以下、第3話のネタバレ満載です。

冒頭のシーンより

『さよならマエストロ』の第3話の冒頭、廃団になるオーケストラが残してきた楽譜は段ボールに片づけられていました。その中の一つの封筒を、主人の指揮者、俊平(西島秀俊)が持ち上げると、そこには ”beethoven”や”symphonie Nr.6”の文字。

 

ベートーベン交響曲第6番と言えば「田園」!そう思った瞬間に、優しく静かな出だしのメロディーが流れます。驚くと同時に涙が出そうになりました。何度も何度も何度もカセットテープで聴いた曲。でも、退職後に引っ越す際、カセットテープもCDラジカセも全部処分しました。俊平が持ち上げた封筒の中に、そんな記憶も一緒に入っているような気がしたのです。第1話で「運命」が取り上げられたので、もうベートーベンの曲は取り上げられないだろうと思っていただけに、驚きも大きかったです。

 

そして、「田園」の解説ナレーション。聴力も希望も失っていくベートーベンは、田舎の村でどんな風に過ごしたのだろうかと問いかけます。ただ、そこで生まれた曲が、後世に残る名曲となったことを考えれば、そこでの時間がベートーベンを支えていたことは明白でしょう。

 

かつて高校時代を受験に苦しみもがいただけの時代だと思っていた私。でも、このブログを始めて、高校時代が色鮮やかであり、今の自分を支えていたと気づけたました。そのこととナレーションが重なったのです。このブログを書いていなかったら、冒頭のシーンで涙が出そうになることも無かったでしょう。

 

そしてタイトル画面。今回もドラマにするっと引き込まれる魔法をかけられました。

 

繰り返される曲の挿入

ドラマ内では、度々、テーマに取り上げた曲が挿入されます。

第1楽章

指揮に憧れるクラシック初心者で、バイオリンにも挑戦している女子高生、谷崎天音(當真あみ)が、「田園」の楽譜と格闘します。「田園」の再生に合わせて、バイオリンパートの音符を指で抑えていくシーンでも、第1楽章の後半部分が流れます。

そして、俊平の息子、夏目海から抑え方の間違いを指摘され、始めからやり直し。

冒頭のシーンでも流れた第1楽章の始まりが繰り返されるのです。

 

この何度も何度も聞き直す感じがまた、高校時代を思い起こさせます。ステレオのオートリバース機能を使って、繰り返し聞いた記憶。自動でカセットテープが巻き戻される音まで蘇りました。

第4楽章

ニコンサートのポスターが剝がされるシーンで、第4楽章が流れます。森に嵐が訪れるイメージです。不穏な予感をひきずったまま、BGMは楽団が第4楽章を練習するシーンへとつながります。

 

「田園」は普通に演奏すると、40分を超える曲です。全曲をドラマに収めようとすると、それだけでドラマが終わります。そこで、小出しにしながら、第3話全体が、「田園」の楽曲に合わせているかのような演出にしたのでしょうか。

 

第3話を観るだけで、「田園」を何回も聞いている気分になりました。

 

第4楽章「雷雨、嵐」

「田園」は5つの楽章があります。

  1. 「田舎に到着したときの愉快な感情の目覚め」
  2. 「小川のほとりの情景」
  3. 「田舎の人々の楽しい集い」
  4. 「雷雨、嵐」
  5. 「牧歌 嵐の後の喜ばしい感謝の気持ち」

1,2,3,5楽章はどれも明るく穏やかでいて楽し気な長調ですが、4楽章だけ趣が全く違う短調です。嵐が襲ってくるパートだけあって、不安と荒々しさが際立つのです。

 

その4楽章「雷雨、嵐」の練習中、オーケストラ楽団の問題が表面化します。楽団の技術のレベルをあげたい新メンバー、チェロ奏者の蓮(佐藤緋美)と、仲間同士で楽しく演奏したい旧メンバー、トランペット奏者の大輝(宮沢氷魚)との対立です。廃団を控えた団員同士の不協和音は、練習を重苦しいものに変えました。

 

メンバーの目指す方向性の違いから生じる対立はありがちな話です。ただ今回は、お互いが、技術を磨きたい思いも、仲間と上手くやっていきたい思いも併せ持っていながら、そのスタンスの取り方で生じた対立です。どちらにも、それぞれに音楽への思い入れがあるが故の対立であり、それを楽団としてどう受け止めるとよいかと悩みます。

 

気まずいながらもミニコンサートに向けて準備を進めていましたが、市の嫌がらせにも思える一方的な都合で、コンサートの日に練習の会場も使えなくなります。そのことを、指揮者俊平の娘、響が伝えに来て、楽団全体が更に暗い雰囲気に覆われます。

 

俊平は思わぬ方法でそれらを解決させます。思わぬ展開で企画された道の駅の朝市での青空(ゲリラ)コンサート。お客さんを呼べないなら、お客さんの居る場所でコンサートを開けばいい。そうして、指揮者を前に「田園」の演奏が始まります。その指揮をする俊平の楽しそうな表情と動き。順調なスタートでした。

 

第2楽章「小川のほとりの情景」

青空コンサートでは第1楽章の演奏後、俊平が観客に、この曲を聞いたことがある人!と問いかけます。殆どの人が手を挙げます。続いて、では題名を知っている人?と問うと、誰も手を挙げません。私はテレビの前で思わず手を挙げてしまいました。そして、作曲したベートーベン先生を知っている人!と聞くと、再び全員が挙手。

 

このシーンが印象的です。そうなんです。誰もが聞いたことのある曲。でも、題名を知っている人がほとんどいないなんてことは、珍しくないです。第1話の「クラシック音楽好きは全人口の1%もいない」の台詞を目に見える形で示したシーンでした。

 

そして、第2楽章へ。俊平は、対立しているチェロの蓮とトランペットの大輝の二人だけの演奏に託します。本来、第2楽章にトランペットのパートはありません。それを、俊平が二人のため、楽団の今後のため、アレンジして作ったトランペットの楽譜を、二人の了承の上で演奏させるのです。妥協でも我慢でも強制でもない着地点。蓮の高い技術で、大輝の演奏を支えるという発想でした。

 

二人だけの演奏による第2楽章が始まります。穏やかな楽曲を二つだけの音で紡いでいきます。涙が出てきました。クラシックは好きだけれど、それを語れる相手がおらず、極たまにクラシック好きの輪の中に入ることができても、自分の無知を思い知らされる。楽器も何一つできない私ですが、もし、こんな風に支えてくれる人がいれば、クラシックをもっと楽しめたかも、なんて思いました。いえ、クラシック好きを自認しつつ「ボッカ・ルーポ」(Bocca al lupo:オオカミの口に)飛び込めなかった私の限界だったのでしょう。

 

「田園」の第2楽章に、新たな思い入れができました。きっと、第2楽章を聞くたび、このエピソードを思い出すことでしょう。

 

その後、第4楽章の途中、本当に雨が降り出しコンサートは中断。慌てて楽器や譜面台などを片づける中、俊平はヨーロッパに行っているはずの妻、志帆(石田えり)を見かけます。まだまだ波乱の展開が続きそうです。

 

今後の展開

第3話で、演出が上手いなあと思ったのが、もう一点あります。奏者の思いを理解できる指揮に憧れ、一人でバイオリンの練習を重ねるクラシック初心者、谷崎天音(當真あみ)と、5年前まで注目を浴びるバイオリニストでありながら、バイオリンから離れた俊平の娘、響(芦田愛菜)の描写です。蓮と大輝は対立した後で理解し合えましたが、対立どころか、どんな接点になるかも予想できない二人のバイオリン奏者の孤独な姿。

 

3話のラストでは、響が遂にバイオリンを手に取り一人演奏します。そのバイオリンは、初心者の天音が練習に使っている物のようです。指揮者である父、俊平を否定しつつも、バイオリンの高度な技術を持っている響。指揮者を目指し、まずバイオリンを理解したいと練習する天音。次回、響と天音の接点が生まれる予感満載です。

 

二人の周りも気になる所。響の演奏する姿に大輝が気づきます。指揮を目指す天音には指揮者の息子、海が関わりを深めそうです。思うに、孤独と仲間の在り方は、番組の大きなテーマになっているのではないでしょうか。

 

余談になりますが、そうした展開に加えて、響のスプーンを使った目隠しシーン、俊平が自転車に乗って転倒したり、乗り忘れて帰ってくるシーンなどの小ネタもなかなか効いていて、個人的に良いと思います。

スプーンで目隠し シーン

今後の展開も目が離せません。

 

夏目家の家族関係も謎の部分が多いです。俊平の妻、志帆がヨーロッパ旅行を装いながら、街に宣布吸くする理由は何か?俊平一人家族から離れて暮らしていた理由は何か?何より、番組名『さよならマエストロ』の「さよなら」が何を意味するすのかも気になるところ。

 

そして、『さよならマエストロ』をまた私が記事に書くのかどうか、不明な部分はたくさんです。(え?そこはどうでもいい?)