2023年10月11日。将棋界に新たな記録。
※この記事は、藤井棋士の八冠達成の対局について、私の観戦記録です。
お昼までの対局
11日は、お昼前頃からネットの王座戦中継サイトをちらちら見始めました。
王座戦は9時開始で、持ち時間は5時間。お互いが持ち時間を使い切るのに10時間ですから、当日の夜には勝負がつく予測になります。
でも、プロのタイトルをかけた対局は、なかなか手が進まないことも多いです。1手を差すのに1時間かかることも珍しくありません。私が見始めたのは39手を指した局面。藤井棋士の40手を待っていましたが、何度見ても変化なし。それもそのはず、40手目は53分をかけた1手で、もう、お昼前になっていました。永瀬王座の41手目を待っている間に、昼食休憩に入りました。
棋譜以外の報道
最近は対局中のおやつや食事も詳しく報道されるようになりました。以前は、棋譜を離れたニュースにあまり関心を持たなかった私ですが、コロナ禍の対局の際に藤井棋士が使った絹製マスクが話題になった頃から少し考えが変わりました。これだけ注目を浴びるようになると、棋士、スタッフ、対局場の人、マスコミへの影響も大きいです。ある意味、将棋人気に繋げるための注目を集める工夫もありだと思うようになりました。
名古屋での対局では、藤井棋士がおやつに限定品の「ぴよりんアイス」をチョイスして、全国に「ぴよりん」の名が知れ渡りました。一時期お店の売上は5倍になったとか。ちなみに、アイスではなく、プリンのぴよりんだと、崩れやすく持ち運びが大変だそうです。でも「ぴよりんアイス」なら、崩れません。もし対局の日に、プリンのぴよりんを注文していたら、スタッフはかなり神経を使うことになったでしょう。タイトル戦で、崩れたおやつを出すなんてことはできないはず。おそらく、その辺りもきちんと計算して「ぴよりんアイス」にしたのだろうと勝手に思っています。そして、藤井棋士のチョイスには何らかの意図があると考えるようになりました。
昼食(勝負飯)のチョイス
さて、この日、藤井棋士がチョイスした昼食は寿司「盛り合わせ」でした。中トロ、ボタンエビ、サーモン、イカ、アナゴなどの七貫です。お吸い物付きとは言え、量的に少ない気もしましたが、それより気になったのは、八冠がかかった対局で「七貫」の注文。
私の勝手な思い込みが発動しました。
「7貫(七冠)じゃ満足できない」という藤井棋士の意思表示に思えたのです。普段、野心を語ることの無い藤井棋士にしては、随分な意気込み。私の思い過ごしかも知れませんが、このチョイスを永瀬王座がどう受け止めたのかもちょっと気になるところ。もっとも、二人は別室で食べたでしょうから、知らずにいたかも知れません。
この日は王座のタイトル奪取をかけた対局でしたが、現在、藤井棋士は竜王のタイトルで七番勝負も始まっています。王座戦の第五局を期待する人も多かったでしょうが、藤井棋士としては王座戦を長引かせたくない思いがあったのではないでしょうか。
勝負の行方
昼食後、永瀬王座が41手目を指します。42手目で藤井棋士42分の長考。43手目永瀬王座、124分の長考になります。それでも、残り時間はかなりの差で藤井棋士の方が短くなっていました。この時の私のX(旧twitter)がこれ。
#王座戦
— tn198403s カメさん (@tn198403s_tw) 2023年10月11日
現在、永瀬王座が43手目の思考中。
永瀬王座がやや有利らしいけど、まだ何とも言えないような…
持ち時間の多さは有利としても、結局のところ、持ち時間内で良い手を指せるかどうか。持ち時間がどれだけあっても、一つ悪い手を指せば局面はあっけなく変わる。
今がその分岐点ぽい。
将棋AIの分析では、永瀬王座優位とする判断が多かったようですが、圧倒的優位とは言えない状況。その後、流れは一進一退という感じが続きました。ようやく、ずっと攻められていた藤井棋士が反撃の機会を得て、流れをつかんだのですが、途中で攻めが途切れます。この時、さすがに今日の8冠は難しいかもと思い始めました。ただ、大きかった残り時間の差はなくなり、両者とも1分の間に指さないといけない状況になりました。ここからは、目が離せません。
その後、永瀬王座の攻めになり、段々と藤井棋士の敗勢が色濃くなってきます。122手目、藤井棋士の5五銀は相手玉の逃げ道を塞ぐ手でしたが、心境としては奇跡を願うような手、否、もしかしたら他にこれという手がなく「形作り」(お互いに攻め合った形にして投了を覚悟する流れ)に近かったかも知れません。
実際、123手目で永瀬王座が攻め駒を厚くして4二金と王手を打っていれば、藤井棋士が投了してもおかしくない局面でした。私もスマホを見ながら、馬で王手だと逃げられるから、攻め駒を補充する王手が良いのではと考えていたところ。ただ悲しいかな、私には1分の間に読み切れる棋力はありません。
勝敗を左右した手
それだけに、永瀬王座の123手目5三馬は、私も「あれ?」と思った手でした。馬で攻めても詰むの?という疑問は、第3局で同じように永瀬王座が勝つだろうと思われた局面で敗着となる手(66手目4一飛車)を指した記憶を呼び起こしました。
124手目、王手とされた藤井棋士は当然、待ち構えていたように王を逃がします。そして、125手目に永瀬王座が指した自陣を守る3八桂を見て、はっきり、形勢が逆転したのを確信しました。
一つ悪い手を指せば局面はあっけなく変わる。
X(旧twitter)に残した言葉が、的中したような展開です。
おそらく、棋譜を観ていた多くの人が驚いたでしょう。まだ、藤井棋士の攻め筋は読み切れないものの、自玉に即詰みが無い状態なので、王手ではなく「詰めろ」(相手が放置すれば詰みが見える)の手が有効になのです。
棋譜観戦の醍醐味
こうなると、俄然、藤井棋士の勝ち筋を考えます。そして、私の読んだ通りに手が進んでいく醍醐味。棋譜観戦で熱く面白く感じられる時です(もちろん、私の読みを二人の棋士が指しているわけでは無く、たまたま私に最善手が見えているだけ)。でも、途中で私の読みが外れます。これもまた楽しいのです。私が気づけなかった手に「なるほど!やっぱりプロは違うなぁ。」とか感心しながら、自分では気づけなかった手の先の景色を見せてもらえるお得感。
そのお得感は、「自分は将棋が弱いから、もういいや。」と将棋から離れてしまうと、感じることができません。「将棋は弱くても、どんな世界があるのだろう?」と棋譜に触れる人に感じられます。将棋の関心を持ち続けていてよかった。素直にそう思いました。
それはスポーツで華麗なプレーに興奮する感覚と通じるのではないでしょうか。そのプレーの意味がわかるほどに、華麗さが際立って見えるのと、きっと同じだと思うのです。
負けた意味
2戦連続でほぼ勝利を手中にしながら、悪手で逆転を許してしまい、王座のタイトルを失った永瀬棋士の悔しさはいかばかりだったでしょう。頭を抑えたり、叩いたり苦悶する様子もネットで観ることもできますが、それを茶化すようなことは言えません。「お疲れさまでした。ありがとうございました」と思うばかりです。
「負ければ意味がない」と感じる人もいるでしょうし、そう思うからこそ「勝つ意味」が強くなるという人もいるでしょう。それを全否定するつもりはありませんが、私は「負けた意味」に気づく程、負けを乗り越えられる気がします。
乗り越えられるとは、「次は勝つ」というより、「次を見る」という感じに近いです。少なくとも、何となく歳を重ねるよりは、悔しさや決意の持てる負けを重ねた方が良いように思います。私もだんだん還暦が近づいてきたので、負けを受け入れて乗り越える方が楽と思ってるだけかも知れません。
藤井8冠の次は?
さて、見事8冠を達成した藤井聡太棋士の次は何だろうと考えてみました。
え?7冠、8冠と来たら、当然、次は9冠ですか?
いえ、現在の将棋界で主要タイトルは8つなので、現在の所、9冠はありません。
注目は、8冠をどれだけ続けられるかでしょう。
既に、竜王戦(七番勝負)が始まっています。対戦相手は伊藤匠七段。
第1局は10月6-7日に行われ、藤井聡太棋士が後手番で勝利。
第2局は10月17-18日。
ちなみに、羽生棋士が全7冠を制した時は、7冠在位は167日だったそうです。
つまり、7冠を維持するのも大変だということ。
藤井棋士の8冠の維持はそう簡単では無いでしょう。日程的には1年中タイトルかけた対局ばかり。
8冠から最初にタイトルを奪うのは誰か?これもまた注目されそうです。
そして、藤井8冠が勝負飯に八貫の寿司を注文することがあるのか?も個人的には注目しています。
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