『帰ってこいよ』(松村和子)のロングヒット
1980年、三味線を手に『帰ってこいよ』で北海道出身の演歌歌手、松村和子がデビューしました。18歳の少女が三味線を弾く姿にかなりのインパクトがありましたが、失恋をテンポの良いリズムで高らかに歌い上げる姿もそれに劣らず魅力的でした。
1980年4月21日にレコードが出され、その年の『第22回日本レコード大賞』で新人賞を獲得。その後もヒットは続き、翌1981年の紅白歌合戦に出場しています。約2年に渡るロングヒットだったので、記憶にとどめている人も多いのではないでしょうか。
歌に込められた思い
一番の歌詞はこうです。
きっと帰って くるんだと
お岩木山で 手を振れば
あの娘は小さく うなずいた
茜の空で 誓った恋を
東京ぐらしで 忘れたか
帰ってこいよ 帰ってこいよ 帰ってこいよ
恋人が東京に行ったまま帰らない失恋の歌と言えば、太田裕美の『木綿のハンカチーフ』(1975年)が想起されます。物語的な構成で、田舎を離れ都会で暮らす恋人の気持ちが少しずつ遠ざかり、最後にはそっと別れを受け止める女性が描かれた歌です。
対して、『帰ってこいよ』は、恋人の帰りを待ち続ける男性が描かれています。未練がましいとも思える一方で、その恋焦がれる強い思いが熱い歌い方に反映されているのでしょう。
でも、今になって歌詞をよく見ると、あの娘が小さくうなずいただけで勝手に恋だと思い込んでしまった可能性もありそうで、ちょっと心配です。しかし、それを封印してしまうほどの若さというか、一途なエネルギーには圧倒されます。わずかな望みを頼りに帰りを待ち続ける若者を支持する人がいても不思議ではありません。
ただ…。これまた、後づけの勝手な想像ですが、実は小さくうなずいた娘が松村和子本人だったとしたらーー、そして、故郷で待っている男性がいることを知りつつ東京でこの歌を歌っていたとしたらーーなんて、それはそれで何ともやるせないドラマですね。
お岩木山は青森県弘前市ですし、三番の歌詞には「津軽の風」の言葉もあるのでそれは違うという見方ができる一方、三味線を使っているために「津軽」の設定にしたとの見方もできそうです。
七五調の歌
とはいっても、私が『帰ってこいよ』を強く憶えているのには別の大きな理由があります。高校時代、国語の授業で「七五調」なる言葉を教わりました。日本の歌には、七音と五音を繰り返すものが多いということでした。俳句や短歌のみならず、演歌を中心に歌謡曲にも多いという話です。
いろいろ確かめてみると、まさにその通り。七音が先に来るか、五音が先に来るかの違いはあっても基本、七音と五音の繰り返しになっている歌は簡単に見つかりました。『帰ってこいよ』も七五調です。
甲子園で流れる校歌や童謡にも七五調は多いです。そこでふと思いついたのが、七五調の歌詞を入れ替えて歌う遊びでした。そしていろいろ試す中で、『帰ってこいよ』はリズムもよく、感情豊かに歌える歌だと再認識したのです。
もっとも、幾らかの部分で七五調の並びが違ってくるし、歌詞全体の量にも違いがあります。そこは元の歌詞の流れを壊さぬように歌詞を編集しました。
『帰ってこいよ』の歌を『うさぎとかめ』の歌詞で歌う
入れ替え歌で、一番気に入っているのが『うさぎとかめ』です。『帰ってこいよ』の歌詞が長いため、『うさぎとかめ』の一番と二番を合わせて調整しました。
いかがでしょう。
って、イメージしづらいと思ったのでイラストも用意しました。
童謡のリズムだと、ウサギとカメは淡々とやりとりしている感じですが、『帰ってこいよ』のリズムで歌うと一変します。前半は、歩みののろいカメを許せないウサギがカメにとことん問い詰める感じです。後半は、そこまで馬鹿にされてたまるかと反論するカメの気持ちが前面に出てきて、カメの闘志満々さが伝わってくるかのよう。(え?そう思うのは私だけ?)
この発見と遊びは長らく私一人で楽しんでいましたが、一度だけカラオケで職場仲間の前で歌ったことがあります。周囲の反応は虚を突かれたのか、いま一つという感じでしたが、私としては童謡を熱唱した満足感がありました。感情を歌声にこめる爽快感と言えばいいでしょうか、すっきりです。でも、その後は人前で歌っていません。
また歌いやすさ(リズムの取りやすさ)も『帰ってこいよ』は具合が良いのです。『北の宿から』や『おもいで酒』、『蛍の光』では、ウサギとかめのやりとりが重たく感じられます。『六甲おろし』、『日本昔話』、『ギザギザハートの子守歌』では、当事者ではなく傍で見ている感じがしてしまって、感情移入しづらいです。(私の個人的な意見です)
そんな訳で『帰ってこいよ』には、多分他の人は気づいていないだろう魅力が私には感じられるのでした。
その他の入れ替え歌もいくつか紹介しておきます。
『浦島太郎』版
むかしむかし うらしまは
たすけたかめに つれられて
りゅうぐうじょうへ きてみれば
えにもかけない うつくしさ
たいやひらめの まいおどり
みやげにもらった たまてばこあけて おじいさん
『ももたろう』版
も~もたろぉーさ~ん も~もたろさん
おこしにつけた きびだんご
ひとつわたしに くださいな
あぁ~げまぁしょう あーげましょう
これからおにの せいばつに
ついていくなら ついていくなら あげましょう
(※少し歌いづらいです)
『いぬのおまわりさん』版
まいごのまいごの こねこちゃん
あなたのおうちは どこですか
おうちをきいても わからない
なまえをきいても わからない
ないてばかりいる こねこちゃん
いぬのおまわりさん こまってしまって ワンワンワンワーン
他の遊び方
脳トレとして歌詞の歌とは違う曲で歌う
ちなみに、『うさぎとかめ』、『うらしまたろう』、『ほたるのひかり』、『どんぐりころころ』等、同じ構成になっている歌なら歌詞の編集をせずに入れ替えで歌うことができます。たとえば『ほたるのひかり』の曲で『どんぐりころころ』を歌うなどです。慣れるまでちょっと難しいですが、記憶している歌詞を別の曲で歌うことは脳トレとしてもけっこう有効だと思います。お勧めです。
歌の途中で別の歌にする
先の歌い方をさら難しくするために、歌の途中で別の歌詞に替えることもできます。『うさぎとかめ』のリズムで『うらしまたろう』を歌う途中で、『ほたるのひかり』や『どんぐりころころ』に替えたり歌詞の元曲に戻したりすると、これまであまり使わずにいた思考回路が刺激される面白さが味わえます。
始まりの部分をずらして歌う
さらに、歌詞と曲をずらす遊びもできます。『うさぎとかめ』なら、「せかいのうちに おまえほど」から歌い始めて「もしもしかめよ かめさんよ」に戻って終わるなどです。
注意
ただ、これらをあまりやり過ぎると、どの歌詞がどの曲だったかよくわからなくなることもあるのでご注意ください。
将来の展望、今月の目標
童謡の歌詞で熱唱してみたいという密かな思いは高校時代から持っていましたが、私の歌唱力だと人前では歌いづらいです。将来的に、AIが発達して音声を補正してもらいながら別歌詞でもカラオケで熱唱できるようになればやってみたいです。とはいえ、私の歌唱レベルで上手く歌えるようにするまでにどれほどの年月がかかるやら。
今の私にできることと言えば、一人ドライブをしながら熱唱するくらいです。
ということで、今月の目標はこれにしました
『帰ってこいよ』の曲に乗せて、童謡を熱唱する。
もっとも、この記事ネタを考えながら、既に今日の運転中に達成しましたけどね。
今週のお題「今月の目標」