tn105.『虎に翼』のだんごとすいとん
前回、NHK朝ドラ『虎に翼』の「美味しい物を一緒に食べる意味」を考えました。
記事では、配給生活だけでは生きられない時代、苦しい生活を続ける家族にチョコレートを渡すエピソードを紹介しました。『虎に翼』では、いろんな「美味しい物」が登場します。明律大学女子法科同期生、梅子のおにぎりだったり、涼子の店のオムライスだったり、しるこ屋「竹もと」の団子だったり…
団子のエピソード
謀らずも、『虎に翼』のドラマに出演していた松山ケンイチさんがX(旧twitter)で、ドラマの中に出てきた団子の味が、戦前と戦後で違っていたエピソードを教えてくれました。
虎に翼第37回視聴
— 松山ケンイチ (@K_Matsuyama2023) 2024年10月2日
戦時中の空気感。淡々と日常を描いている。
寅ちゃん。ゆうぞうさんの事が好きになった。
あれ、ゆうぞうさん今回は布団入ってすぐ寝てない。
お便り来るなよ。
あれ、あれれれ?お便り来るなよ!
って寅ちゃんの耳と頬が赤くなってる!すげーーーー!
そして寅ちゃんご懐妊。…
ここで
たけもとの団子。戦前と戦後味変えてたんだよな。
戦前は団子が硬く、戦後になると柔らかくなった。レシピ時期で変えてる。消え物部のこだわり。
と述べていました。(「たけもとの団子」とは、松山ケンイチが演ずる桂場裁判官がよく通ったしるこ屋さん「竹もと」で出される団子。)

すいとんの話
この話で思い出したのが、終戦の日に食べる「すいとん」の話です。
3年前の記事では
子ども向けのドラマでも、終戦記念日に親が戦時中に不味いすいとんを食べていたことを知ってもらおうと食卓に並べるのですが、子どもはそれを食べたくなくてトラブルになる話がありました。
と紹介しています。
これとは別の番組で、終戦記念日に家族ですいとんを食べる時に父が「戦争中は、食べ物が無くて、すいとんで命をつないだんだ。」と説明するも、子どもが「こんな美味しいものを食べてたの?!」と言い、父は「美味しいすいとんじゃダメだ!」と怒り出した話もありました。
一方、90年代後半、地域の集まりで戦時中の話を聞いた後、すいとんがふるまわれたことがあります。美味しくないすいとんを覚悟していたのですが、美味しさにびっくり。参加していた子どもたちも、「美味しい!」とニコニコ。しいたけ、ニンジン、鶏肉、葉野菜など具沢山で彩もよく、とても上品な美味しさでした。作った人の話では、「すいとんは美味しくないという固定観念をひっくり返したかった」とのこと。孫が「戦争は嫌い、すいとんも嫌い」と言ったのがきっかけだそうで、「戦争が、すいとんを美味しくない物にしたんです。」、「すいとんが美味しいと言われるまで、戦争は終わってないと思います。」と話してくれました。その人の家では、戦争で困窮するまで美味しいすいとんをよく食べていたと聞きました。
味覚の伝承とは
戦時中や敗戦直後は、食べる物さえままならなかった時代。しるこ屋「竹もと」では、材料が手に入らなくなり、美味しい団子の提供も難しくなり、ついには店を続けられなくなりました。
ある家でよく食べられていた美味しいすいとんも、段々と粗末な物になるしかなく、米すら手に入らなくなった時には、ただ命を繋ぐだけの美味しくない物になりました。
戦後、生活が安定してくると、美味しい団子の復活は皆に喜ばれます。でも、戦争の記憶のために、美味しいすいとんは封印され、美味しくないすいとんを食べる習慣が生まれます。その違いに、今更ながら気づかされました。
今、美味しいすいとんのイメージを持つ人は少ないと思います。そればかりか、戦争が遠くなるに従って、すいとんそのものが人々の記憶から薄れている気もします。時代と共に消えていく食べ物は珍しくありませんが、すいとんは消えて欲しくないと思うのです。
あの時のお婆さんが話してくれたように、終戦の日に美味しいすいとんを食べるというアイデアはありだと思います。まず、美味しいすいとんを知る。そして、美味しくないすいとんにした戦争を考える契機にする。そんな味覚の伝承も方法だと思うのです。
今週のお題「秋の味覚」
※記事作成画面には「【お題】おいしいもののことを考えよう」とあったので、この話にしています。
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