枝豆を更に熟れさせたら大豆になると知ったのは、いつだったろう。
既に働いていたのは間違いない。
ピーナッツと落花生と南京豆が実は同じ植物だと知ったのも、働き出してから。
関心を持たなければ、出会った知識は記憶を素通りしていくものだ。
南京豆の記憶
保育園か幼稚園に通っていた頃、節分の豆まきを殻のままの南京豆でした記憶がある。投げた後も殻を割れば汚れを気にせずに食べられる。大きいので目につきやすく拾い集めやすい。食べる際、大豆より大きい分、落としにくい。そんな理由だったと思う。年の数だけ食べるときに、食べ過ぎたら鼻血が出ることがあるけどみんなはまだ小さいから大丈夫、という話も聞いた気がする。
ただ、南京豆を殻ごと食べた気もするが何だったろうと記憶をたどっていたら、殻ごと食べられるお菓子を思い出した。ネット検索して正体判明。
見た目が南京豆そっくりな明治の「なんきんまね」だ。1974年発売。
殻がチョコをぬったスナックになっていて、中にピーナッツが入っていた。パッケージをまねて、イラストにしてみた。
細かく思い出してみると、一時期かなりハマっていた気がする。でも、それほど長期間、食べ続けていたわけではないから、忘れたのだろう。
ともかくこんな理由で、殻のついた状態のピーナッツが「南京豆」というイメージが出来上がったと思う。
「落花生」の呼び名をいつ覚えたのかは不明。ただ、落下傘が降りてくる打ち上げ花火を知っていたせいか、長らく「落下生」だと思い込んでいた。今思えば、何だか落第生みたいな情けない言葉に違和感たっぷりだが、関心を持たなければ、出会った知識は記憶を素通りしていくものだ。多分、それまでに何度となく「落花生」の文字は見たはずだろうに、記憶の訂正はされず、受験生には不吉な名前に思えたものだ。
ピーナッツが不穏なイメージと繋がったのは、ロッキード事件だった。ただし、小学校低学年だった当時は事件を理解できるはずもなく、「100万円のピーナッツ」との言葉だけが記憶に残っている。そんなのを食べたらきっと鼻血が出るだろうなと思ったことも覚えている。
ピーナッツは身近な食べ物だった。チョコボール、ピーナッツチョコを筆頭に、チョコレートとの愛称は抜群。バレンタインデーに母からもらったハートチョコも懐かしい。食べていると、ピーナッツの練り込み具合のせいだろう、思わぬところで崩れることがあった。ハート(心)には確かにそういうことがある。
私が子どもだった頃、親戚が集まってビールが出るとき、つまみに柿ピーが必ず入っていた。それを少しもらう。柿の種は辛すぎたが、辛い辛いと言いつつピーナッツを食べると、ピーナッツがやたら美味しかったのを覚えている。
そういえば、ザ・ピーナッツという女性二人組の歌手がいた。テレビでも度々見かけたはずだが、『モスラ』(1961年)のシーンが一番記憶に残っている。私が生まれる前の作品だがテレビで見たと思う。ちなみに、父と母はデートで観たと聞いたが、再上映だったかも知れない。
南京豆、落花生、ピーナッツの話はひとまずこの辺で止めておく。
大豆の記憶
豆腐が大豆からできていると知ったのは、幼児の頃。豆腐屋さんがラッパを鳴らして行き交うような場所には住んではなかったが、洗面器のような入れ物を抱えて、豆腐を買いに行った記憶はある。
店では湯船ほどもある水槽から、でっかい豆腐を救い取り、切り分けてくれた。帰りに入れ物の中でフニフニ踊る豆腐を見てとても愉快に感じたものだ。
当時は、卯の花やおからが身近な食材で、度々食卓に上った。栄養があると何度も言われたが、パサパサした感じがどうにも苦手。
小さい頃の私は肉、魚、野菜が嫌いで母を困らせた。今、ほぼ好き嫌いが皆無なのは、母の苦労と知恵のおかげだと思う。
主食が乳製品と果物という感じ。ご飯や豆腐も好きではなかったが、肉、魚、野菜よりは食べた記憶がある。豆腐なら渋々でも食べたから、おからも何とか食べるのではないかと母が考えたとしても無理はない。
ただ、細かい話をすれば、冷やっこ等、冷たい豆腐より、みそ汁などに入っている温かい豆腐が好きだった。働き出してから、店で湯豆腐を食べたとき、豆腐の一番美味しい食べ方は湯豆腐だと思うようになって今に至っている。子どもの頃の踊る豆腐の記憶。鍋の中で食べ頃に加熱された豆腐はそれを彷彿させてくれる。ぐつぐつ煮てはいけない。その前の、ふつふつ豆腐の揺れる感じを「豆腐が笑う」と命名し、それが合図である。
大豆そのものも、嫌いではなかったはずで、節分の豆まきの時もぽりぽり食べていた。フライパンで煎って、間もない熱い豆をまくのが我が家風と以前の記事にも書いた。
「煎ってあっても、家で煎る方が良いんだ。豆は魔を滅する、煎るのは魔を射ると言うからな。」
でも、もうしばらく豆まきをしていない。明日も豆は食べても、豆まきをせずに終わりそうな感じだ。
節分には学校の給食にも豆が出ていた。小袋に大豆が20~30個入っていただろうか。それを年の数だけ食べる。食べない子もいて、「落とした~。」の声を聞いたと思う。「手が滑った」「袋を開けてたら散らばった」等と言っている。大方、食べたくなくて落としているのだろうと思っていた。年の数だけ食べても豆が残ったので、給食をかたずけた後、掃除が始まる前に図工で作った鬼の面をかぶり、豆を投げ合った記憶もある。教室のあちこちに豆が落ちていて、それを踏んづけることもあった。教室の掃除をすると床に大豆が結構集まる。それを見て、少し罪悪感。
高校時代、一時期豆乳を好んで飲んでいた。これはテレビ番組の影響で、豆乳にはタンパク質が豊富でカロリーが少なく効率的にたんぱく質が摂取できると知ったからだ。この頃には、好き嫌いをはほぼ征服、無調整の豆乳も平気だった。
ただ、納豆はまだ西日本で食べる習慣がなく、これは大学受験当日の朝にチャレンジすることになった。
豆腐の話に戻そう。大豆から丁寧に作った豆腐は何をつけずとも美味しいというイメージができたのは、旅館の朝食に豆腐がまるまる一丁出てきたときだ。さすがにこれは食べられないだろうと思ったが、旅館の自慢だという。その通りだった。醤油もかけず、薬味も無しで食べる方が美味しいと思った。とにかく豆腐そのものの味が違うと豆腐料理は一変する。
醤油や味噌も大豆を使う。日本の料理に大豆は欠かせないと言えるだろう。しかし、大豆の自給率は低い。今も大豆の総需要量の内、6~7%だと言う。高校時代の地理だったか政治経済だったかで習った数値と大した変化はない。さや入りの枝豆を店で見かけることは多いが、大豆がとれる程に熟した物を見たことがない。これ程に大豆を良く食べるのに、大豆好きの大豆知らずは私だけだろうか。
マメとナッツの境界線
マメとナッツの分類
ずいぶんと前置きが長くなったが、本題はここからだ。枝豆が大豆の未成熟な状態ということも、ピーナッツと落花生と南京豆が実は同じ植物だということも知らないまま大人になっていた。
しかし、一度不思議に思い始めると、いろんなことが気になっていく。
お酒のつまみに好んで食べたミックスナッツ。ミックスナッツにはよくピーナッツが入っている。その他、アーモンド、カシューナッツ、くるみだろうか。ある時、ふと思った。ピーナッツは南京豆ともいう。マメとナッツの違いとは一体何だろう?一度は調べたはずなのに、もう区別ができなくなっている。
今、「ナッツと豆の違い」でgoogle検索すると、トップにこう表示された。
広辞苑では、豆とは「マメ科に属する植物のうち、ダイズ・アズキ・ソラマメ・エンドウなど実を食用とするものの総称。 また、その実。」 とあります。 要するに、マメ科であれば豆類、種実類はナッツということになります。
「何だ、明確に区別されているじゃないか」と思う人もいるだろう。読み進めるとこんな文章に出くわす。
ここまでナッツは種実類だ!と説明してきましたが、ナッツとして知られているピーナッツは実は種実類ではありません。ピーナッツは豆類、マメ科ラッカセイ属の植物なのです。
ここでも「ああ、やっぱり。」と思う人は多いだろう。でも食べ物の分類としてならともかく、植物を豆類と種実類とに分類するには無理がある。
中学校の理科では、誰もが植物の分類をこう習ったと思う。
植物は、種子を作る植物(種子植物)、種子を作らない植物(胞子植物)。
種子植物は、種子がむき出しの裸子植物と種子を覆う被子植物に、
胞子植物は、シダ、コケ、菌類、藻類に分かれると習う。
で、菌類にカビ類やキノコ類も含まれると知り、カビとキノコは同類なのかと驚く。
でも、毒キノコや酵母菌で発酵させることを思い出すとなるほどなぁと思う。
そして、食べられるかどうかで分類されてはいないのだなと知る。
その後、それをどこかで忘れ、マメとナッツは豆類と種実類に分類されてるんだなぁと納得しそうになる。
じゃあ、○○はナッツ(種実)類なのか?
ここで、問題。次の植物の内、ナッツ(種実類)はどれ?
1.ゴマ
2.栗
3.かぼちゃの種
4.イチゴ
5.粒マスタードの粒
6.米
7.ひわまり
答え (ぼかし部分にカーソルをあてる、タップで字が読めます。)
種実類は2,3,7,と な る
1~7まで全て種子を食用できる植物であるが、答え以外は通常、種実類とはされない。野菜か果物かの分類も簡単なようでややこしい。農林水産省の野菜(畑でとれ、毎年枯れる草本類の植物)と果物(栽培には数年必要な木になる実)の分類に従えば、栗は果物である。
また、農林水産省の記事によれば、イチゴは粒々が果実となる。
いちごの表面にあるツブツブは種ではなく、ひとつひとつが果実です。それぞれのツブツブの中に種が入っています。一粒のいちごは、200個から300個の果実が集まった「集合果」。私たちが果実だと思って食べている甘い部分は、実際は茎の先端の花床(かしょう)が膨らんだ偽果(ぎか)です。
とある。
種実類 - Wikipedia によると、
種実類(しゅじつるい)とは、食用とされる種子のうち、穀類と豆類以外のものを指す。一方、ナッツ(nuts)は、食用部である種子が堅い殻に包まれたものを指す。この2つはおおよそ重なり、アーモンド、クリ、クルミ、ピスタチオ、ココナッツ、ヒマワリ、ギンナンなどが含まれる。ただし、種実類のうちゴマやチアシードなど小粒のものはナッツには含まれず、またナッツは種実類ではない豆類やドライフルーツの一部を含むことがある。
とされている。
ピーナッツはマメ?ナッツ?
ここまで書いてくると、ピーナッツはマメかナッツかの分類はどうでもいい感じになってきた。
イチゴが野菜だとしても「果実的野菜」として果物コーナーに置かれることがほとんどだ。メロンも同じ。糖度で野菜と果物に分ける場合だってある。青いバナナは野菜、黄色くなったら果物扱いとも聞く。それに、果物コーナーに並ぶ栗を見たことがある人が居るのだろうか?
だからもう、ピーナッツはナッツ的マメでいい。境界線はある程度必要だろうが、それに囚われる必要はあるまい。茹でピーナッツを最近食べた。マメなんだから、茹でて食べるのもありだ。でも、マメだからミックスナッツに入っているのはおかしいと訴えたりはしない。ピーナッツは落花生と違う、いや同じだ、なんて、「落下生」と思い込んでいた私が言える資格も無い。南京豆とピーナッツが同じかどうかも、栗とマロンが同じかどうかというようなものだろう。
長々と書いてきたが、結論を言おう。
ピーナッツには、マメとナッツの境界線を乗り越える楽しみがある。
それを楽しめればいい。
豆まきで、大豆をまいても南京豆をまいても、立春はやってくる。
今週のお題「マメ」