2023年度大学入学共通テスト
1月14日・15日(土・日)に実施。
今年は、コロナ感染第8波の収束が見えない中で行動規制は特になく、新型コロナに関する“救済措置”の話もあまり聞きませんでした。受験生やその家族にとって、コロナ感染対策はより厳しいものになっていたと思います。
一方で、去年の問題流出事件の影響でしょう、試験に対する不正行為への注意喚起が強調されたとも聞きました。また、去年は受験生が刃物で刺された事件もあり、試験会場の警戒が強化されたというニュースもありました。
私が共通テストに関心を持つ理由は、自分の「学力」調査と、共通テストから見える世情です。去年は、地上配備型迎撃システム「イージス・アショア」計画のミスに絡んだ出題もありました。
今回は私のテスト挑戦より先に、共通テストを概観して思ったことを書いてみます。
共通テストに託された思い
挑戦したテスト問題以外は、ちらちらと眺める程度でしたが、それでも出題者の意図を感じる問題も散見できました。もちろん、その意図についての説明は無く、いわば私の思い込みです。それにも少し触れておきます。
倫理 大問の第4問 「親ガチャ」の捉え方
2021年の流行語大賞のTOP10に「親ガチャ」が入りました。ネット検索すると
「親ガチャ」とは、おもちゃのガチャガチャで出てくるアイテムのよ うに、親を自分で選べないことで、親が当たりだったりハズレだった り、運次第であることを一言で表現した言葉
とのことです。テスト問題に「親ガチャ」の言葉は出てきません。でも、それを意図したような高校生GとHの会話があります。会話の冒頭が
すごい豪邸…。こんな家に生まれた子どもは運がいいね。不平等だね。
です。そして、会話の終わり部分は
ただ、努力もすべて運次第だからと言う理由で、努力する人がしない人と同じ扱いを受けるとしたら、それはやっぱり不公平じゃないかなあ。
となっています。高校3年生が持っていそうな「親ガチャ」への疑問について問題を作成している気がしました。
第4問の問7では、日本の様々な年齢に「まじめに努力していれば、いつか必ず報われると思う」と「いくら努力しても、全く報われないことが多いと思う」という意見のどちらに自分の気持ちに近いかを尋ねたアンケート調査が使われています。
1988年と比べているのが2013年ですから、古い調査と言えなくもありません。それでも、2013年の「努力しても報われない」と思う人の多さにはっとさせられる資料です。何故、過去と比べて諦める人が多いのだろう?という疑問が湧きます。
続く9問では、疑問を持った生徒GとHが倫理の先生に質問します。先生は話の最後を
運の違いも努力の差も軽視しない社会の仕組みを考えつくことができるといいですね。
と締めくくっています。これは、努力も未来も諦めない受験生であって欲しいという、問題作成者から受験生に向けたメッセージだと思いました。
国語 大問の第2問 絶望を知った「私」の言動
ここでは、終戦後1948年に発表された梅崎春生の『飢えの季節』の一節を取り上げています。主人公「私」は、第二次世界大戦終了直後の食糧難の中、日給の安い仕事に就きます。幾ばくかの夢を持ちながらも仕事に慣れずにいる「私」に、影のような老人から食べ物を乞われます。しかし、「私」はそれを振り払うしかありません。そして食っていけない仕事の辞職を申し出ます。その時、心の中で
私はどんなに人並な暮らしの出来る給料を期待していただろう。盗みもする必要がない、静かな生活を、私はどんなに希求していたことだろう。しかしそれが絶望であることがはっきり判ったこの瞬間、私はむしろある勇気がほのぼのと胸にのぼってくるのを感じていたのである。
と考えるのです。
未来に絶望を感じながら勇気を持つ「私」の姿も、受験生へのメッセージだと思いました。絶望に気づいても諦めないで欲しい、そんな願いが秘められている気がするのです。出題者が大学受験の問題に敢えて暗い世情の話を取り上げたのは、これから先の苦難を暗示しつつも、精一杯のエールだったのではないでしょうか。
問題作成者の意図
問題作成者の意図はほとんどの場合、報道されません。
国葬以降、マスメディアが報じるニュースは大きく変化した気がします。そうでなくても、先の大戦の負の歴史の記述は教科書から大きく減っています。戦中戦後の大混乱期を学ぶ機会が減る一方で、防衛力拡大、反撃能力の維持が強調される世になってきました。まるで国民の生活窮状を見て見ぬふりをしているかのよう。
経済格差が広がり、若者の中で「親ガチャ」の言葉に共感する人は多いと聞きます。でも、これから十数年が経って、「親ガチャ」を信じる世代が親になったとき、どんな思いで子育てをし、或いは回避するのでしょう。その時、人並な暮らしの出来る給料を手にできる人はどれくらいいるでしょうか。
もしかしたら、そうした危うさを伝えたい意図があったかも知れない、そんな風に思えるテスト内容でした。
と、前置きが長くなりました。今年もテストに少しですが挑戦しています。
国語 第一問に挑戦
問題文はこちら
今年も二つの文章を載せた問題でした。文章1は、正岡子規の書斎にあったガラス障子と建築家ル・コルビュジエの建築物にある窓を考察したもの、文章2は、ル・コルビュジエの窓について別観点から考察したものでした。
正岡子規はともかく、馴染みのないル・コルビュジエの考え方を比較するという点に加え、ル・コルビュジエについて別観点があるために複雑さが増している気がしました。結果、去年より難しい問題になっていると思います。
漢字の問題
去年までと同様、文章1,2の中から、(ア)~(オ)の印が付いた語句について、漢字を問うものでした。
同じ漢字のものはどれか
1.傍線部(ア)・(エ)・(オ)に相当する漢字を含むものを、次の各群の①~④のうちから、それぞれ1つずつ選べ。
答え (ぼかし文字にカーソルをあてる、タップで読めます。)
(ア)1 (エ)3 (オ)2
同じ意味を持つ使い方はどれか
2.傍線部(イ)・(ウ)と同じ意味を持つものを、次の各群の①~④のうちから、それぞれ1つずつ選べ。
答え
(イ)4 (ウ)3
漢字は全問正解でした。
読解文の細かな違い
引用文を適切に読解した文章がどれかを問う問題が4問。
去年の記事をそのまま引用できる問題です。
大意が似ていても、使われる語句のちょっとした違いまで考慮しないと正解は見抜けないです。
読解は苦手ながら、今回は4問中3問正解できました。
文章1,2を読んで話し合う様子
生徒A、B、Cの3人が文章について話し合っています。意見を述べ合う途中の3ヵ所が伏せられていて、その中身を問われます。
でも、先述した通り、文章1と文章2のどちらも、ル・コルビュジエの建築物に触れていて、細かな違いを見分けるためには、二つの文章を再度、読み比べる必要が生じました。
時間を取られる煩わしさが加わって、集中力を奪われます。
とりわけ、回答番号12は、「文章2と関連付けて文章1を読むと」という前提が不意打ちでした。(え?もう一回、読まないといけないのか?)という気にさせられる分、精神的に堪えます。まぁ、読み直さずに答えを見つけられましたけど。
結果、50点満点中32点。去年は29点だったので前進したとも言えますが、とにかく時間がかかりすぎ。試験時間は80分で、第一問は15分程度で終わらせたいところを、30分近くかかっています。
数学Ⅰ 第1問に挑戦
去年は、ニュースに興味を持って数学ⅠAに挑戦しましたが、三角関数の定理がすっかり記憶から抜け落ちていたため、第1問の[3]はまったく解けず終わりました。そこで、今回は三角関数の無い数学Ⅰの第1問を選びました。
[1]数と式
アイウエ部分
|x+6|≦2
|x+6|は、正負を無視した絶対値なので、
-2 ≦x+6≦2
と同意になります。従ってxの範囲は
-8 ≦x≦-4
となり、
<アイ>→-8、<ウエ>→-4
です。
オカキク部分
|(1-√3)(a-b)(c-d)+6|≦2
で(a-b)(c-d)をXと仮定すると
-2≦(1-√3)X+6≦2であり、
-8≦(1-√3)X≦-4
問題文より1-√3は負であることから、
全体を1-√3で割る際に不等号の向きに注意すると
-8/(1-√3)≧X≧-4/(1-√3)
分母を有理化するため、分母分子に(1+√3)をかけ
-8(1+√3)/(1-√3)(1+√3)≧X≧-4(1+√3)/(1-√3)(1+√3)
-8(1+√3)/(1-3)≧X≧-4(1+√3)/(1-3)
-8-8√3/-2≧X≧-4-4√3)/-2
4+4√3≧X≧2+2√3
回答欄の不等号に合わせ、左辺と右辺を入れ替え、Xを元に戻すと
2+2√3≦(a-b)(c-d)≦4+4√3
となります。
<オ>→2、<カ>→2、<キ>→4、<ク>→4
問題文の「1-√3は負であることに注意すると」は、ヒントですね。
正負で間違えることの多かった私だけに、嬉しいような、情けないような、変な感じです。このヒントに助けられた人は結構いそうに思いました。
分母の有利化を思い出すのには、少し手間取りました。
ケコ部分
先の問題より、
(a-b)(c-d)=4+4√3・・・・・・①
である。
①と②の左辺をそれぞれ展開すると、
ac-ad-bc+bd=4+4√3
ab-ad-bc+cd=-3+√3
ここで、①-②は
ac+bd-ab-cd=7+3√3・・・・・・④
となる。
また③を展開すると
(a-d)(c-b)=ac-ab-cd+bd
この右辺ac+bd-ab-cdは、④の左辺と同じなので、
(a-d)(c-b)=7+3√3
が成り立つ。
<ケ>→7、<コ>→3
この問題でも、「左辺を展開して比較することにより」はヒントになっています。
正解は出せましたが、やはり時間がかかりすぎ。
[2]集合
説明部分
ここでも図2,3はヒントになっています。ただし図1と図2の間に一つ図が抜けているので、それを自分の脳内で補完した方がわかりやすいです。
⋂ の記号は、「and」の ⋂ で二つに共通している部分、
⋃ の記号は、集まれ~と呼び集める姿で、二つを合わせた部分、
そう憶えていました。
図2aと図2bで共通する部分だけを示したのが図3になります。
余談ですが、今回、一般にこの記号をどう呼ぶのか改めて調べてみると
⋂ は「共通集合」「交わり」「結び」「インターセクション(Intersection)」等、
⋃ は「合併集合」「ユニオン(union)」等、
で、ユニオンのUをとって記号が決まり、ついてUを反対にした⋂が使用されることになったそうです。
ちなみに、⋂は伏せた帽子の形から「キャップ」、⋃は上が空いたカップの形から「カップ」とも呼ばれるようです。そして文字変換ソフトで「キャップ」と打ち込んで変換すると「⋂」が、「カップ」だと「⋃」が表示されます。私も初めて知りました。
サ部分
ここでも、脳内で図を補完してみます。
こうすると、<サ>→4だとわかります。
シスセソタチ部分
ここは図にして丁寧に考えました。(A⋂Bを赤枠、A補集合⋂Bを青枠)
Aの補集合が1,5,7であることに気づけば、図にするのは容易です。
<シ>,<ス>,<セ>→3.6.9
<ソ>,<タ>,<チ>→1.5.7
ツテ部分
問題文の条件から、
B⋂Cの要素は全てAに含まれます。
つまり、Cは1,5,7を含みません。
同時にCは3,6,9のどれかを含んでいます。
A⋂C補集合は、全てAに含まれます。
C補集合は1,5,7を含み、更に0,2,4,8も含んでいます。
このことからCは0,2,4,8を含みません。
一方、問題に示された条件を見ると、
A補集合⋂Bは、1、5、7です。
A⋂B補集合だと、0、2、4、8です。
従って、どちらも「①どの要素もCの要素ではない」ことがわかります。
※ なお、C={3,6,9}と確定するかどうかは不明。
答えは
<ツ>→1 <テ>→1
結果、20点満点中、20点。点数だけを見れば上出来ですが、今回はできそうな問題を選んでいますから、偉そうなことは言えません。むしろ、かかった時間からすれば、とても制限時間内に全問解けるスピードではありません。
挑戦しての感想
記事にはしていませんが、挑戦した問題は他にもありますが、長くなるので割愛。
私が受けたのは共通一次試験と呼ばれていた時代(1984、1985年)です。
国語、英語、数学がそれぞれ200点満点。
社会と理科からそれぞれ二科目、計4科目を選択して、各科目が100点満点。
合計で1000点満点でした。
わかるわからないはもちろん大事でしたが、時間との勝負でもありました。解けるかも知れないが時間もかかりそうな問題は後回しにしてました。多分、それは今でも同じでしょう。そうなると、今、受験したとしてどれだけの成績が得られるのか、何とも心許ないです。
大学受験の状況は40年前とは大きく様変わりしています。少子化と大学の増加で、近い内に大学希望者は全入できる時代が来るかも知れません。浪人生も減り予備校の需要が落ちているとも。さらに、受験を避けて総合型選抜や学校推薦型選抜により、秋頃に進学先が決まる例も増えているそうです。厳しい受験競争が一概に良いとは思いませんが、「運の違いも努力の差も軽視しない社会の仕組み」が機能して欲しいところです。
大学で求められる学びの質も変わっていくのでしょうか。そうでなくても、今はバイト無しでは高すぎる学費を払えない学生も増えていると聞きます。奨学金を得て凌いでも、就職で得られる収入が少なく、返済で生活が困窮する話も聞きます。
学びが生活を豊かにする。そういう社会であって欲しいです。
※2023年度の共通テストの記事ですが、高校の授業と深く繋がっているということで、カテゴリーを「高校の授業」としています。
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<余談 過去の共通テスト>
以下、2022年度と2021年度の共通テストに挑戦した記事のリンクです。
「受験生として頑張っていた自分」をもう少しリスペクトしてもいいかなと思いました。
は今も思っています。
高校時代は、まだ社会や世間が見えておらず、理想を語りたがって現実を否定する、俗に言う”青臭い奴”だったと思います。
でも、社会や世間が見えてくるにつれ、理想を否定して現実を受け入れる、”泥臭い奴”になった気がします。
どちらが良いという訳ではありません。ただ、”現実を受け入れつつも理想を捨てない奴”になれてないだけの話です。