tn198403s 高校時代blog

「人生に無意味な時間は無い。ただ、その時間の意味を感じることなく生きているだけである。」この言葉を確かめてみようと、徒然なるまま、私の高校時代(1984.03卒業)の意味を振り返り綴るブログです。

ショートショート 『忘れたいこと』

「君、記憶力がすごく良いんだって?」

「同僚全員の誕生日も全部憶えてるらしいね。」

「いや、誰かの誕生日を教えて欲しいって訳じゃないんだ。」

「どうやったらそんなに覚えられるんだろうって思う訳さ。」

「誕生日だけじゃない。住所だって、携帯の番号だって知ってる。」

「さらには、勤務日数、通勤時間、給与明細、出身校、家賃、家族構成まで。何故そこまで知ってるんだ。怪しいだろ。」

「まあ、いい。実はそんな君なら憶えてるんじゃないかと思って来たんだ。」

「ナンバー1224のロッカーを開けるパスワード。7文字の英字らしい。」

「君が、知らないはずはないよな。」

「駄目なんだ。指紋には反応しなかった。消毒で指がガサガサになったからかな。」

「それも駄目だ。顔認証のためにマスクを外すのはリスクが高すぎる。」

「それこそ無理だ。今、証明カードを取りに帰る時間も手段もない。」

「いや、IDはカードが無いとわからない。」

f:id:tn198403s:20211226220857p:plain

ロッカーにパスワードの入力を

「まさか、君は俺が管理者じゃないと疑ってるのか?」

 

誰かに殴られたのか、顔にあざを残す男が人型ロボットに話しかけている。

ロボットの音声はなく、胸の画面に文字を出して応対している。

 

「まあ、セキュリティーに関しては君が第一人者だからな。チェックをしないわけにいかないのはわかるさ。」

「で、俺が管理者だと証明できる方法はないのか?」

「3つ秘密の問題か。ああ、あったな、そんなの。それに正解すれば、ロッカーの管理者としてパスワードを教えてもらえるんだな。」

「解答可能時間は10分か。」

「俺が作った問題なんだから言えるだろ。さぁ、こい!」

「ん?好物の飲み物?」

「待てよ、この問題考えたのは20年くらい前だったか。」

「……」

鉄骨飲料!」

「よし、1問目クリア。そうそう、あえて昔のやつにしたんだ。さすが、俺が作った問題。ひねりがあるな。次は?」

「気になる病気?」

「コツショソウショウ!」

「え?違うのか?鉄骨飲料に引っかけたはずだが。ん?コツショ?コツソ?」

「コツソショウショウ!」

「おお!通った。そうそう、骨素が少々しかないって覚えたんだ。」

「わかってる。間違いは2回までだな。大丈夫、あと1問だ。さあ、こい!」

 

「何?ロッカーのパスワード?」

「おい、それがわからないから聞いているんだぞ。答えらるれはずないだろ。」

「ヒントはないのか?」

「え?君が答えを知らないこともあるのか?おかしいな。じゃあ、正解かどうかをどうやって判断するんだ?そもそも、ロッカーのパスワードを知らない君に、俺は何故聞いてるんだ?何か変だぞ。」

「あと2分か。答えられなかったら、俺は侵入者扱いだな。」

「いや、とにかくロッカーは開けないといけないんだ。ミスはもう1回できるんだったな?でも、ちょっと考えさせてくれ。」

「俺のことだからな、多分、前の答えがヒントになってるはずだ。思い出せ。」

鉄骨飲料骨粗しょう症。共通点は骨で、俺らしい言葉か…。あ!」

 

男はロボットに答える前に、ロッカーのある部屋に走った。

(アイツに答える前に、自分で確かめればいいって訳さ。)

(骨が二つで、こつこつ。俺なら続きを、nohohon にしているはずだ!)

置き去りにされたロボットの胸画面には

「カイトウ キョヒハ ミスニ ナリマス。ジカンオーバーモ ミスニ カウントサレマス。シタガッテ アナタニ バツヲ アタエマス。」

との文字が表示されていた。

 

男が入力するとパスワードは正しかった。

ロック解除と同時にロッカーから、白いガスが吹き出された。

(これを吸ったら、直前10分間の記憶がほとんどなくなるからな。)

この仕掛けを知っていたから防護マスクが必要なのだ。

だが、ロッカーの中に何が入っているかは俺も知らない。

いや、正確に言えば、憶えていない。

ただただ、ここを開けなければいけないことだけを憶えていた。

 

中にあったのは1枚のメモ。

『 「nohohon 」のパスワードでロッカーを開けても何も解決しない。「鉄骨飲料」「骨粗しょう症」「nohohon」の3つのキーワードを10分以内にロボットに伝えれば、ロボットを強制停止できる。ただし、ロボットが先に強制停止方法を知れば、キーワードを無効にするだろう。これだけは絶対に知られてはいけない。』

メモにある俺の字を見て、全てを思い出した。

 

暴走するロボットに会社のフロアは完全に封鎖されていた。ロボットが管理できないスペースは社内でここだけだ。ここが開けば、ロボットは必ず中に何があるか確かめようとするだろう。ロボットを止める方法をロボットに知られてはいけない。そのために、メモをここに隠したのだった。

 

鉄骨飲料」と答えてから、もう10分は過ぎている。

(また、やり直しか。)

男はメモをロッカーに戻して閉める。程なく部屋にロボットがやってきた。

鉄骨飲料、コツ…」

男が言い終わる前にロボットは体当たりをして、男を転倒させる。

男はマスクを外され、ロボットは白いガスを噴射し、記憶はまた消された。

ロボットの胸画面に文字が表示される。

「オタガイニ コノコトハ ワスレマショウ。」

 

 

 

あざだらけになった男によって、ロボットの暴走が止められたのは深夜だった。

ロボットは行動データを意図的に消してしまう不具合を起こしていた。

人に危害を与えたことを忘れたかったのだろうと分析されている。

 

 

 

今週のお題「忘れたいこと」

 

 

※ 3問目の答えの理由が気になる方は、「こつこつ」のブログ内検索結果をどうぞ。