tn198403s 高校時代blog

「人生に無意味な時間は無い。ただ、その時間の意味を感じることなく生きているだけである。」この言葉を確かめてみようと、徒然なるまま、私の高校時代(1984.03卒業)の意味を振り返り綴るブログです。

遊び42.マフラーを編んだら、世界が変わった話

編み物をしたことはありますか?

高校2年の晩秋、編み物の世界を知りたくて、マフラーを編んでみたことがあります。初めての挑戦でしたが、少しは冬を暖かくすごせるかもと夢は大きかったです。

 

実は、きっかけは某科学雑誌の記事でした。

「編み物は2進法の世界である」

とのこと。2進法はコンピュータの世界にも通じているという内容でした。これは是非とも編み物に挑戦しなくては!と思い立ったのでした。変な動機です。

 

※この記事は『tn40.ネタ帳20210115 5つの話題宣言

の「2.編み物の話」にあたる記事です。

 

 

入り口は2進法

2進法は結構身近な存在でした。テストで選択肢に悩んだ時に鉛筆転がしで決めたこともありますが、その鉛筆がこちら。

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鉛筆転がしの2進法

普通に数字にしたら鉛筆で答えを決めているのがバレバレなので、姑息にも2進法のデザインを考えたのです。1=□□■、2=□■□、3=□■■、といった具合。2進法なので白を1と考えれば1=■■□、2=■□■、3=■□□、としても使えます。2択なら黒が多ければ〇、3択なら黒が2つ並んだ場合、白が2つ並んだ場合、白黒がバラバラな場合等々。ま、2択なら1~3と4~6、3択なら1、2と3,4と、5,6でも良いですけけど。5択や4択の問題も、これは違うというのを外して2択か3択でやってました。

 

2進法に関心を持つ人は少ないと思っていましたが、この記事に手をつけたタイミングで、LSSさんが過去記事をツイートされていました。

意外と身近なのかも。記事を仕上げるようエールをもらった気がしました。(って、もうずいぶんと前の話ですが)

 

編み物と2進法

雑誌では「編み物のデザインは表編みと裏編みで作られている2進法の世界」とのことでした。それまで2進法は2次元の世界というイメージだったので、それを覆された感じがして、まだ知らない2進法の世界を覗いてみたくなったのです。

 

母は以前、編み物をしていました。私が小さい頃、青と緑の毛糸でセーターを編んでくれたことがあります。お気に入りの一着でした。緑や青が好きなのはこの影響かもと思うほど。

 

道具があると知っていたので、突然母に編み物がしたいと告げ、針と毛糸玉、本も貸してもらっての挑戦でした。

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初めての編み物 くさり編み

最初のくさり編みは雑誌の写真のようにできている気がしたですが、そこから先の編み目がやたらと複雑になってしまうのです。どうやっても写真のようにはなりません。表編みと裏編みだけしかないはずなのに、何で?としばらく格闘しましたが、何ともならず、母に質問しました。

 

「それ、針が違う。」

「え?針が違っても、編み目は表か裏しかないのに?」

「編み方が変われば、編み目が違うのは当たり前。」

 

かぎ針編みと棒針編みで編み目が違うことも知らずに、かぎ針編みでメリヤス編みに挑戦していたのです。この時になって「編み物の世界は表編みと裏編みしかない」を誤解していたと気づきました。

 

2進法の世界といっても、1と0、〇と×、■と▲等、どんな要素で構成されているかで見た目が違うのは当然です。どんなに1と0と駆使しても、■▲■▲にはなりません。かぎ棒編みで、メリヤス編みができない訳です。

 

ちなみに、かぎ針編みにも、表編みと裏編みがあります。ただ、その目の見分けは今もよくわかりません。

 

表編みと裏編み

ともかく。二本の棒針を借り直して、編み物再開です。

 

科学雑誌には、メリヤス編みと裏メリヤス編みの写真があったと記憶しています。違いが分かるよう二つをイラストにしてみました。イメージ的にメリヤス編みはVネック、裏メリヤス編みはUネックと憶えています。

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メリヤス編みと裏メリヤス編み

雑誌には「メリヤス編みは表編みだけでできる一番基本の編み方」とありました。

表編み、表編み、表編み・・・。

表編み、表編み、表編み・・・。

表編み、表編み、表編み・・・。

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表編み イメージ

ひたすらに表編みを繰り返しました。

交差する棒針は左手の棒針が上、右手の棒針が下になるように刺して編みます。

なのに、メリヤス編みの編み目にはならず、表裏とも裏メリヤス編みに見えるのです。後に、これがガーター編みと知りますが、その時はまだ裏メリヤス編みとの区別ができません。

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ガーター編み

表編みのつもりで編んでいたけれど、逆だったのかもと思い直して

裏編み、裏編み、裏編み…。

裏編み、裏編み、裏編み…。

裏編み、裏編み、裏編み…。

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裏編み イメージ

裏編みは、左手の棒針が下、右手の棒針が上に交差するように刺して編みます。

ひたすらに裏編みを繰り返しました。

結果、またしても表裏とも裏メリヤス編みに見えます。

 

何だ?これは??

表編みで編んでも、裏編みで編んでも、同じってどうゆうこと???

表編みと裏編みの2進法の世界のつもりが、表も裏も区別がつかないメビウスの輪状態になってしまったのです。

 

またもや挫折。表編みと裏編みしかない世界で、こんなに悩まされるとは思っていませんでした。棒編み経験のある人は私のミスに気づかれたかと思います。初心者あるある話です。編み方に表編みと裏編みしかなくても、編み物には表目と裏目があるのでした。

 

表目は表編みで裏目では裏編み

いろいろ確かめました。編み物のきっかけは科学雑誌でしたが、この段階になると母の持っていた編み物の本の方が頼りになります。本を発行していたヴォーグ社という名前もこの時に覚えました。結果、表目は表編みで裏目は裏編み、そうすることによって、はじめて表目が全部表編みのメリヤス編みになると理解できました。試したことは無いですが、表目を裏編み、裏目を表編みでもメリヤス編みになるはずです。(糸がねじれて変になる可能性はあります)

 

どうしてそうなるのか、理屈はよくわからないままでしたが、表目と裏目の見分けが大事だと肝に銘じ、棒針を持ち換えるたび、中島みゆきの歌を歌っていました。

「うら、みま~~~す♪」また「おもてみま~~~す♪」とも。その部分だけです。おかげで表目と裏目を確認する癖はつきました。とにかく表目では表編み、裏目では裏編みを心掛けたのです。

 

こうしてようやく、メリヤス編みに成功できました。

 

適度に編む難しさ

ただ、メリヤス編みはできたものの、かなりいびつでした。編んでいる途中、編み目がきつくなって棒針を刺すのに苦労したり、編み目に刺したつもりが糸の撚(よ)りの間を通してしまったり、逆にゆるゆるで編み目の隙間が目立ったり。或いは、編み目を飛ばしたり、糸が変にねじれてしまったり。失敗の連続でした。

 

これも、これまでイメージした2進法とは別世界でした。メリヤス編みができても、どんな風に編んだかで仕上がりの感じは全然違ってくるのです。適度に編み続ける難しさを知り、セーターを編んでくれた母が偉大に思えました。

 

そうなる理屈

私の場合、理屈がわかっても頭でイメージができないと分かった気がしないという癖があります。表目では表編み、裏目では裏編みの理屈をきちんとイメージできるまであれこれ考え、こんな思考に到達しました。考えついたのは大学院時代です。

 

まず、透明のガラス板をイメージしてください。今は表目から見るとします。

編むとはオセロの駒(表が黒、裏が白)をガラス板に貼り付けることと考えます。

表編みは、黒が見えるよう、ガラスに白い面を押し付ける編み方。

裏編みは、白が見えるよう、ガラスに黒い面を押し付ける編み方。

下のイラストはこれを元にしました。赤矢印の側が表目、青矢印が裏目です。

 

表目も裏目も、表編みをし続けると、イラストの上段図のように黒の列と白の列が並んでしまいます。逆に裏編みをし続けると、最下段の色が変わっても、結局黒白が並んで見えるのは当たり前の話です。

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表目は表編み、裏目では裏編みのイメージ

下段図は、表目では表編み、裏目では裏編みをした場合です。

こうすると表目からは全部が表編み(黒が見える)状態になります。これがメリヤス編みだと考えました。もちろん、これを裏目から見ると全部が裏編み(全部が白)状態=裏メリヤス編みとうわけです。

 

それまで私のイメージの2進法には表裏の概念がなく、机に置いた方眼紙マスを黒でぬるかぬらないかの二者択一でした。でも、編み物には表裏があるので、それに合わせて表編みと裏編みを使い分ける必要があったのです。これで、すっきりできました。

 

本当に「編み物は2進法の世界」か?

この時になって疑問を持ちました。科学雑誌にあった記事は、編み物の経験の無い人が理論的に編み物を語っただけじゃないかと。適度な編み方を続ける苦労を知っていれば、「編み物は2進法の世界」と単純に言い切らないはずだと思ったのです。

 

2進法の世界は、他の条件を考慮せず、ある一点のみのデータに注目する特殊な世界に思えました。「理論と現実は違う」そんな理論が現実味を帯びて感じられました。それまでシンプルだった2進法の世界が、がらりと大きく変わって見えたのです。

 

でも、後に「現実は正しい理論からは逸脱できない」のも確かに思えました。表編みと裏編みの中途半端な知識だけで始めた編み物ですが、表目と裏目、力加減、糸のねじれ等を意識したから、いびつながらも一応メリヤス編みに辿り着いたのです。これらを意識(理論化)できていないままだときっと編めなかったでしょう。

 

「理論は現実から生まれる」のも確かです。後に科学雑誌が説明不足だった気はしましたが、恨みはしていません。むしろ、実際に編んでみて「うらみます」「おもてみます」の区別が必要だと気づけたのは収穫でした。雑誌の理屈の上に現実で得た理屈を重ねて編めたのです。理論(意識)が現実に合わない場合、その理由を見つけて再び意識(理論化)する。それが大切なのでしょう。

 

結論的には、「編み物は2進法の世界」は正しいと思っています。目を飛ばすとか糸を捩じるとかの場合はあれど、編み方に表編みと裏編みしかないのは事実です。問題は2進法ではなく、私のイメージの貧弱さでした。編み物はそれを教えてくれた気がします。

 

あったか~いを感じた日

その後もマフラー編みは遅々として進みませんでした。最初は失敗しても毛糸を解けば大丈夫だと、毛糸を解くのを幾度も繰り返しました。でも、そうする内に毛糸は傷んできます。毛羽立ちが増え、糸の撚りにすき間ができて棒針も刺しにくくなります。

 

結局、年を越しても思ったようなメリヤス編みマフラーは完成しませんでした。長さこそ1.5mくらいになりましたが、どうしても編み目が詰んでしまって、しなやかなではないのです。見た目もかなり歪んでいて、広げるとあぶったイカのようにグニャグニャで、凸凹もありました。しかも力を入れていたせいか、手汗もかなりついたようで、白に近かった糸はうっすら赤茶けてる感じです。結局、糸をくれた母に謝って使うことなく捨てることになりました。

 

ようやく見た目にマフラーらしい作品が完成したのは大学院時代。なかなか編む機会が取れず、7年越しで完成。母はまだ未熟さが見て取れる作品を見て「ようやくできたね。」とだけ言ってくれました。つれない言葉でしたが、そう言いながらも、あったか~い目が、頑張ったねと言ってくれているようでした。

 

その後、滅多にマフラーをしなかった私がマフラーをして出かけるようになったある日、どこに置き忘れたのか行方不明になりました。これもマフラーあるあるですね。その後、編み物はしていません。いろんな模様を作るには至りませんでしたが、私の貴重な体験となっています。

 

 

今週のお題「あったか~い」