ペットボトルの広がり
突然ですが、今、みなさんの家の冷蔵庫にはペットボトルが何本入っていますか?
一度開栓しているもの、空のものも含めて、1日に何度、ペットボトルの蓋を開け閉めしていますか?
ペットボトル飲料の爆発的な拡大が社会に与えた影響は、恐らく多くの人が思っている以上に大きいと思います。使用頻度と生産量が増大していく中で、処理問題も深刻になり、環境や気象とも無関係と言えなくなってきました。
今回、ペットボトルの黎明期から現在の課題までをまとめてみました。
この記事は、「お茶と水と清涼飲料水、そしてペットボトル(2)<美味しい水編>」からの続きです。
ペットボトルの登場
1974年アメリカで炭酸飲料用に使用が開始されます。
日本では当初、食品衛生法の関係で清涼飲料用には使用できませんでした。1977年にしょうゆ、1982年に飲料用の使用が認められました。それ以降、徐々に広まっていきます。でも、それほど急速には広まりませんでした。当初は大型容器(1L以上)に使用が限られていました。使用後のペットボトルの処理方法が未確立だったために、急激な消費拡大を避けていたからです。
緑色ペットボトル
ペットボトル容器が緑色だった理由
1990年代前半、緑色のペットボトルが流通していたのを憶えているでしょうか。
「お~いお茶」(1.5L)がペットボトルで売り出されたのは1990年ですが、当時のペットボトルは緑色をしていました。紫外線などの影響を避ける等の意図もあったかもしれません。
<引用元> 伊藤園〈PR〉|食品産業新聞社ニュースWEB
上の画像では、容器がお茶の色と似てわかりづらいので、別のサイトからも引用しました。
こちらのお~いお茶は空の容器です。また、三ツ矢サイダーのペットボトル画像も載せておきます。キャップはまだ金属製が多かったようです。
<引用元>
・お~いお茶:静岡県立大学 グローバル地域センター(PDFファイル)
https://www.global-center.jp/media/20200717-132225-643.pdf
「三ツ矢」の歴史|Asahi SOFT DRINKS History|アサヒ飲料
一時期、緑色のペットボトルが多かった理由は、ペットボトルのリサイクル方法を確立させるためだと聞いています。使用が大型容器の限定されたのも、小さいサイズの物を売り出すと一挙に消費が進み、町中にペットボトルが溢れる懸念があったからです。
PETボトルとリサイクルの歴史|PETボトルリサイクル推進協議会 の「ペットボトル年表」によると、「1990年4月 高知市、神奈川県伊勢原市でPETボトル回収実験開始」(赤枠、背景ピンク)とあります。
ペットボトルが使われ始めた頃、その処理はまだ社会実験段階でした。緑色は、この実験と関係があったようです。
リサイクルした製品も緑
実は、運よくペットボトルのリサイクルに取り組む会社の人からお話を聞いたことがあります。具体的な商品ついては正式な販売まで内緒の約束でした。当時、飲料ペットボトルのサイズは1L以上の規制があり、緑色の物が多かったです。
ここで問題です。私がお話を聞いたペットボトルのリサイクルに取り組む会社は、どんな会社だったでしょう。
1.板金製造会社 2.衣料品製作会社
3.製薬会社 4.製紙会社
(ヒント)
当時、その会社では緑色のペットボトルのみをリサイクル対象としていたそうです。均一の品質を保持するために、他の物を混ぜないと聞きました。リサイクル品が低品質になってはいけないというこだわりに感心しました。再生品は、中古品でも、使い回し品でもなく、新品として扱われないと再生したことにならない、そのためには徹底した材質管理が必要、そんなお話だったと記憶しています。同時に、利益を産みだすものにならないと意味がないとも聞きました。
今、その製品を日常的に使っている人もいると思います。流し台で残飯などを入れる三角コーナーにかぶせる台所用品で、水切り袋、水切りネットとも呼ばれます。網タイプと不織布のタイプがありました。網の方はそれほど流通しなかったようですが、どちらも一時期緑色の物が出回りました。これはペットボトルが緑だったことに関係しています。現在は不織布自体は白になっていますが、商品パッケージに薄緑色が多いのはその名残に思います。
不織布とは名前の通り、織らないで作る布。となると…、答えはわかりましたか?
答え.4
(※ぼかしにカーソルを合わせると答えが見えます。)
中小企業の挑戦
再生PET繊維を織ることなく布にする技法は、繊維を複雑に絡ませつつ均一な厚みにする紙漉きの技術からきているそうです。お話は日本国内で最初の不織布製造を始めた金星製紙株式会社(高知市)の人から聞きました。イメージ的には街の中小企業ですが、この新しい技術が収益に繋がり、今では会社の主力商品となって全国トップの3割の生産量を占めているそうです。
「ペットボトルが大量に使われる前から、リサイクルを考え、大量消費に備えていた」という話に驚きました。それにしても、製紙会社がペットボトルのリサイクルです。どんな技術を生み出すかはいつの時代も重要ですが、どんな技術をどう使うかも大事な視点です。利益が出るかどうかもわからない中で、懸命な努力を惜しまない姿はとても輝いて見えました。
増え続けるペットボトル
かつてガラス瓶が主流であった大型清涼飲料容器は、気がつけばペットボトルに変わっていきました。そして1993年6月、PETボトルにこのマークの表示が義務づけられます。
いよいよリサイクルの完全実施が始まるのだとの期待もありました。
さらに、1996年には、飲料用ペットボトルは1L以上という規制がなくなり、500mlなど小さいサイズが出回ります。これによって手にする人も機会も増えました。学校の遠足で水筒代わりに500mlサイズのペットボトルを持たせて良いのか、空容器は持ち帰るべきか、そんな話を聞いた記憶があります。保温のためのカバーもよく見るようになり、ぱっと見で水筒とペットボトルの区別がつきにくくなりました。誰かのために、お茶を淹れることだけでなく、容器にお茶を入れることすら減っていったように思います。
透明ペットボトルの利点
(1)リサイクルの用途拡大
2001年、着色ボトルは全面禁止となり、全て無色透明化されました。
無色のペットボトルから作られた白い繊維は、衣類の原料として使用可能であるが、着色ペットボトルから作られた着色の繊維の需要は限られ、このルールが定められた。
( ペットボトル - Wikipedia より)とのことです。
もちろん、これに合わせて水切り袋も白くなりました。ただ、ペットボトルリサイクルの黎明期、薄緑の製品を見て嬉しくなった頃と違い、今はどれがリサイクル品なのか、わかりません。リサイクル品かどうかがわかるのとわからないのとで、どちらが良いのか、判断できずにいます。
何にせよ、透明化はリサイクルの用途を広げた以外にも、容器の材質としてもさらに優位性が高まったと思います。
(2)軽くて加工しやすい
ペットボトル普及以前、飲料の容器はビンか缶が主流でした。1970~80年代の炭酸飲料1Lビンを口飲み(ラッパ飲み)した人なら、飲み切る前に持つ腕が疲れ、一度手を下ろして休憩した経験がありそうです。小学生の時に挑戦しましたが、片手で持つのも難しく、両手でも滑りそうで、口でビンを支えるようにして飲んだ記憶があります。飲み切れたかどうかは憶えていませんが、1Lビンがかなり重たかったのは憶えています。子どもでは、大ビンからコップに注ぐのも大変でした。ちなみにこの後、小銭の貯金箱にしていました。
一時期、大容量(1Lや2L)のビール缶が出回ったこともあります。でも、これまた注ぐのが大変で、それ用のプラスチック製注ぎ口や把手(とって)が商品につけられることもありました。でもそれが定着することもなく、やがて350ml、500ml入りの缶で買うのが普通になりました。大容量の缶も持ちやすさや注ぎやすさでの改善が難しかったのでしょう。
その点、ペットボトルは注ぎやすい形、持ちやすい形、さらには耐熱、耐寒に対応した製品も次々と開発されていきます。透明化以前から、軽さ、加工しやすさで優位性はありましたから、透明化でさらに用途が広まりました。
(3)中が見えて密閉度が高い
これも缶や紙パックとの大きな違いです。
仮に、口飲みしないルールが確立している冷蔵庫に、自分が開けたのではない開栓済みの紙パック入りお茶があったとしましょう。隣に同じく自分が開けたのではない開栓済みのペットボトル入りお茶があったとしましょう。
あなたはどちらが安心して飲めそうに思いますか?また、何人分残っているかわかるのはどちらですか?一目見て買い足しの必要がわかるのはどちらですか?
ペットボトルは、中身が見えて密閉されていることに大きな利点があると思います。推奨はされていませんが、一度使ったペットボトルを洗って、水道水や麦茶を入れていいる人も多いでしょう。大型スーパー等飲料水の給水サービスもペットボトルで利用される例が多いです。でも、紙パックや缶のボトルで、同じようにする人はあまりいなません。重さや注ぎやすさだけでなく見やすさ、見た目の美しさも透明ペットボトルの独擅場です。
以前、アルミ製だった蓋はプラスチックになり、飲み口も改良されて中身がこぼれることもなくなりました。キャップとボトル本体の材質は違いますが、リサイクルの過程も工夫され、開栓した時に残るリングはそのままでかまいません。(外しても良い)ただ、キャップは外さないと圧縮や洗浄が困難になるので、外すようになっています。ちなみにリングが残るのは開栓済みかどうかを見分けるために必要だそうです。
(4)飲料が美味しそうに見える
これは私論です。利点(1)~(3)でペットボトルは消費者の飲料水イメージを大きく変えたと思います。
前回( お茶と水と清涼飲料水、そしてペットボトル(2)<美味しい水編> )で
どこまで安全で美味しい水を求めるかは個人の判断ですが、一時期悪意を感じるほどの水道水批判があったことは、今も疑問が残っています。もっとも、それゆえの発見もありましたけど。
と書きました。「それゆえの発見」とは、ペットボトルに入った水道水なら美味しいと感じて飲む人は意外と多いということです。
東京水飲み比べキャンペーン
東京都水道局が数年に渡って「東京水飲み比べキャンペーン」を行っています。
2017年(平成29年)の実施方法と結果です。
実施方法
水道水は水道局庁舎の蛇口等から採水
水道水、ミネラルウォーターとも同じく10〜15℃に温度管理
どちらが水道水又はミネラルウォーターか分からないようにして目隠し実施
同じ条件下で飲んだ場合、水道水とミネラルウォーターの味に大きな差は感じられないようです。
(参照URL)
「東京水飲み比べキャンペーン」の平成29年度実施結果をお知らせします。 | 広報・広聴 | 東京都水道局(リンクから他の年度の結果も見られます)
ペットボトル入り水道水
水道水とミネラルウォーターの味に大きな差がないのに、水道水を飲まない理由は何でしょうか。水道局は、実際に美味しいかどうかだけでなく、美味しそうに思えるかどうかも大事な要素だと判断し、「水道水はまずい、危険」というイメージの払しょくにとりかかります。飲み比べもその一環だったのです。
味に大きな差がないと判明した後、なんとペットボトル入りの水道水が売り出されました。ボトル入りミネラルウォーターと同様、持ち運べて、冷蔵庫で冷やせるボトル入り水道水。価格も500ml入りで100円前後。ミネラルウォーターと大差ありません。
でも、中身が水道水で本当に売れるのでしょうか。
<参照URL>
なぜ、「ペットボトルに詰めた水道水」が売れたのか (1/5ページ) - SankeiBiz(サンケイビズ)
おいしい水道水ボトルウォーター:「安全でおいしい水道水供給の推進」WEBサイト−社団法人日本水道協会
結果。ボトル入りミネラルウォーターと大きな遜色もなく売れています。
思うに、ペットボトルの見た目の美しさには、光でキラキラ輝いて見えたり、透明度を見た目で判断できたり、持ち運べそうであったり、冷えていたり、冷やせそうと思えたり、そうしたいろんな要素が詰まって、ペットボトルに入っていれば美味しそうに感じるのではないでしょうか。
水道水を飲むのに抵抗を感じる人でも、空のペットボトルに水道水を入れ、冷蔵庫で冷やしておけば、ミネラルウォーターのごとく飲める人は少なくないと思います。私もその一人です。
ペットボトルによる生活の変化
ペットボトルで生活が変化したとは言い過ぎかも知れませんが、少なくない影響があったと思います。それを幾つか列挙してみます。
冷蔵庫の収納
私が小学校の頃(1970年代)、家の冷蔵庫はずいぶん小さかったのですが、開けた扉の内側には、大抵、ビールの大びん(633mL)が2,3本入っていたものです。他に夏であれば麦茶を入れた容器、冬なら柑橘類を絞った酢を入れたファンタの1Lビン。牛乳はビン入りが毎日配達されていました。他の飲料として缶ジュース、缶コーヒーくらい。冷凍室は無く、製氷室?で氷を作るのが精一杯。アイスクリームの保存はできません。
(イラストは一部サイズが小さ過ぎです。肉は竹皮模様の紙に包んでくれてました。マーガリンにはバターナイフを刺したまま。キャベツは新聞紙にくるんでいたような。冷蔵庫の下部に冷やす装置が入った盛り上がりが懐かしいです。)
でも今は、多くの冷蔵庫で扉の内側に2L入りのペットボトル類が入っているのではないでしょうか。買って来たお茶や水、あるいは、水道水や給水サービスの水を冷やすのに再利用している人もいるでしょう。1Lサイズの野菜ジュースやコーヒーのボトルの入れ場所としても使われていそうです。
冷蔵庫が大きくなったから大容量ペットボトルが増えたのか、大容量ペットボトルの利用が増えたから冷蔵庫が大きくなったのか、多分、お互いに影響し合ったのだろうと思います。もちろん、ペットボトルだけの影響でもないでしょうけれど。
買い物の仕方
10年前の日記にこんなことを書いていました。
いつからこんなにカートの利用が増えたのだろうね。
かつて、映画やドラマでカートを使うアメリカの買い物風景を、「そんなに一度に買い込んで大丈夫?」なんて気になったのに、いつのまにか、日本でも日常になった感じだ。家族の人数は確実に減ってるのに、一回の買い物量は増えたよね。
地方では、商店街の買い物客や駐車場の小さなスーパーがどんどん減っています。その原因の一つに、徒歩や自転車では運びづらい買い物量の増加があると思います。
私は移動のしやすさを重視して、なるだけカートを使いたくないのですが、大容量のペットボトルを3本も買えば、結構きついです。さらにスーパーの給水サービスを利用するとなると、重労働にギブアップしてカートを使います。
もちろん、これもペットボトルだけの影響ではないでしょう。でも、ペットボトル飲料の増加と買い方の変化は無関係ではないと思うのです。
容器の再利用
軽くて、加工しやすく、透明で耐水性がある素材です。少し工夫すればいろんな使い方があります。
ペットボトルロケットは有名です。風車などのおもちゃ、水彩画の水入れ、花の一輪挿し、楽器にしたり、たくさん貼り付けて筏にしたり、救命具としても使える等々。
ただ、用途が広くて何にでも使えそうですが、温度耐性については特に注意が必要です。熱湯を注いで変形して身体に浴びてしまった(耐熱性でも80度まで)、耐寒性の無い容器で水を入れて凍らせたら破裂したなどの事故は多いようです。
一時、水を入れて並べておけば猫避けになるという話がありましたが、効果は疑わしい上、むしろ日光の収れんによる火災被害が起きています。猫避け使用は避けた方が良さそうです。
リュックのポケット
小学校の遠足に使ったリュック。リュックを背負うと、ポケットは背中側でした。リュックのサイドにポケットがあるのを見かけるようになったのは、小型ペットボトルが広まりだしてからのように思います。ボトル式の缶飲料の影響なのかもしれません。
今、リュックを選ぶ際、サイドのポケットを確認するのは私だけでしょうか。
250mL缶飲料の大型化
小型ペットボトルが普及した頃、少なくない缶飲料が250mLから350mLに増量した印象があります。いつだったか、友人が子どもに飲料を買い与える際、「飲み切れない量の缶が増えた」と言っていたのを聞いて意識化されました。小型ペットボトルは、消費者に250mL缶の量を少ないと思わせる作用もあったと思います。これは一方で、飲み残しが広まり、ゴミ問題を複雑にしたとも思います。
他にもいろいろありそうですが、この辺にしておきます。
リサイクルの現状
結論を一枚の画像にするならこんな感じでしょうか。
日本では、ペットボトルの回収率が高く、リサイクルの取り組みの成功例も知っていたので、リサイクル率は高いだろうと思っていました。でも、予想をはるかに超えて深刻な事態になっていたことを数年前に知りました。
ペットボトル回収率とリサイクル
PETボトルリサイクル推進協議会によると日本のペットボトル回収率は90%を超えています。計算の仕方で少しの差異はありますが、世界的に見ても高い回収率です。
参照URL
回収率推移など|統計データ|PETボトルリサイクル推進協議会
最近は回収率よりリサイクル率が注目されます。そこで、リサイクルとは何か、よく言われる「3R」から検討してみます。
①リデュース(Reduce:廃棄物の発生抑制)
製品を作るときに使う資源の量を少なくする。廃棄物の発生を少なくする。
②リユース(Reuse:再使用)使用済みの製品や部品をもう一度使う。リサイクルショップやメルカリも。
③リサイクル(Recycle:再資源化)使用済み製品や容器包装などを回収し、原材料または焼却熱のエネルギーとして利用する。
最近は、これに+Renewable(再生可能、持続可能)が加味されることも多いようです。
長らく、不織布の水切りネット等でペットボトルのリサイクルはうまく回っていると思い込んでいました。でも、水切りネットで使われた後は、焼却されるわけです。それを再資源化(リサイクル)といっていいのか、温暖化ガスの問題が深刻になった頃になってようやく疑問を持ちました。
ペットボトルをすぐに燃やさず、他で利用した後なら温暖化ガスを出してもリサイクルと言えるのでしょうか。もしそう言えるとしても、植物の光合成などによる自然還元のスピードを上回らないことが条件に思えます。遠回り焼却が温暖化ガス排出のわずかな抑制にはなるとしても、本質的な削減とは言えないでしょう。
世界中がペットボトルで溢れている
2018年、世界中から資源ごみや廃プラスチックを受け入れていた中国が輸入を禁止し、「中国ショック」と呼ばれ、大量のペットボトルが行き先を失い、世界中が対応に追われました。
(詳しくはこちら↓)
中国の受け入れ拒否の大きな原因は
汚れた廃プラスチックのリサイクルには、手作業での分別や洗浄が必要だった。その時に出る汚泥や、洗浄に使う薬品の多くが、川などへそのまま流され続けたため、中国国内に環境汚染という深刻なひずみが生まれてしまった。
とあります。また、中国の国内でのプラスチック利用が急伸し、自国分だけでも持て余す状況になったようです。さらに
日本でも、中国へ輸出できない廃プラスチックが各地でたまり続けている。今のところは、中国の輸入禁止直前に駆け込み輸出をしたため、問題は表面化していないが、パンクは時間の問題だといわれている。日本の廃プラスチックの中国への輸出量は、世界最大の年間100万トン、東京ドーム3杯分にあたる。
とも書かれています。
このことは、かなりショックでした。日本のプラスチック(ペットボトルも含まれる)がリサイクルという名目で輸出(実質廃棄)されていた話は聞いていましたが、その量があまりに予想外でした。分別して回収ルートに乗っているのはそれほど多くはないようです。
京都市ごみ減量推進会議 の記事では
すでに国内のリサイクル産業の手に余るほど,ペットボトルが回収されています。
とのこと。これにも驚きました。
一方、PETボトルリサイクル推進協議会 リサイクルの進捗|3Rの取り組み|では、
一部の市町村では容リ法に基づく分別収集で集めた使用済みPETボトルを輸出業者に売却し、指定法人ルートに引き渡さなくなったため、容リ協会から落札した一部再商品化事業者の仕事が無くなるという予期せぬ事態も発生しました。
とあります。自治体からの輸出により国内のリサイクルを止めてしまうこともあったようで、こうした姿勢には呆れるほかありません。
日本は、今、東南アジアの別の国に輸出してしのいでいる状況です。
参照URL 使用済みPETボトルの輸出状況(財務省貿易統計)|
しかし、中国にできなかったことを他国で永続的にできるのか、他国でも輸入拒否された場合、日本が自国で処理できるのか、先行きは暗いです。
カーボンニュートラルのハードル
そんな中、2020年10月に菅首相(当時)が「2050年までにCO2やメタンなどの温暖化ガス排出量を、森林吸収や排出量取引などで吸収される量を差し引いて全体としてゼロにする」として2050カーボンニュートラルを世界に宣言しました。当初、政府は80%削減を想定していたのですが、100%削減するというのです。世界には驚きを持って歓迎されました。
しかし、これまでプラスチックを資源ゴミとして輸出し、CO2削減だと言っていたのです。もう、その手は通用しません。本当に実現可能なのでしょうか。最大の課題は、自国内でプラスチックごみをどう処分するかです。
先ほどの3Rをペットボトルでもう少し検討してみました。
①リデュース(Reduce:廃棄物の発生抑制)
ペットボトルの軽量化がまず思い当たります。手で軽く潰せる物が増えました。もっとも、その分、強度を不安視して消費者が避ける場合もあるようです。
②リユース(Reuse:再使用)
ペットボトルロケットや一輪挿しなどに使ってなおかつ捨てないというのは無理があるでしょう。かといって、かつての酒瓶のように洗って再利用というのも難しそうです。少し角がへこんだだけのペットボトルでも、買うのを避ける人は珍しくありません。果たして技術的に傷を全然つけずに洗って再利用ができるのか、また消費者心理として、きちんと洗えたとしても購買意欲に影響しないのかなど、気になる点は多いです。ペットボトルは見た目に美しく、(選別回収をしたとしても)手軽に使い捨てられことも魅力なのです。消費者意識を変えるのは簡単ではないと思います。
また、流通量の多さ(重さより容積)も問題です。洗って再使用する場合、かさばることを考えれば、遠距離を搬送する際のCO2排出も無視できないそうです。
③リサイクル(Recycle:再資源化)
ペットボトルを融解して、再資源化し、再度ペットボトルにして使う方法「ボトルtoボトル」が一時行われていました。しかし、資源ゴミとして輸出する方が経済的とされ、回収も困難になりストップ状態です。中国ショック後も、特に新たな動きはないようです。
各家庭のペットボトルは洗った後に選別されての回収率も高く、材質的にもかなり良質な状態ですが、それでも洗浄コスト、回収、輸送などの費用が生じます。そうでない産業廃棄物となると汚れも多く、洗浄コストは激増します。国内でリサイクルするより、外国に買ってもらった方が安くすむというのが実態だったようです。
これがビニル袋を含むプラスチックゴミに限らず、火力(石炭)発電等の産業排出等も合わせて、温暖化ガス排出量を差し引きでゼロにするというのですから容易ではありません。
ペットボトルの行き着く先
かつては、各家庭でお茶を淹れ、また水道水を当たり前に飲んでいた私達(特に40代以上くらい?)です。「お茶を買う」「水を買う」なんてありえない話でした。そこにペットボトル入りのお茶や水を買う、冷やす、持ち運ぶなどの生活スタイルが定着しました。慣れるとその便利さは当たり前になりました。
以前、
の記事の中で
見えていないものを見ようとする、あるいは想像する。
ことの大切さを書きました。ペットボトルも自分なりに、その行き着く先を考えていたはずなのに、回収ルールに則っているという油断や便利さに慣れてしまって想像しなくなっていました。
今、プラスチック汚染は海溝の底から世界の屋根ヒマラヤまで、また北極から南極まで広がったと聞きます。加えて地球温暖化により、人も動物も暮らしにくくなってきています。
国連広報センターのサイトの冒頭は
ご存知ですか。実はプラスチックごみの9割が、リサイクルされていないこと。
で始まります。そこには『プラスチックの海』の動画も紹介されています。
(※ 鳥の解剖シーンがあります。苦手な人はご注意ください)
何故9割も?本当に?と思う反面、無関心でいてはいけないとも思います。
私はペットボトルを回収ルートに乗せるようにしていますが、小型も含めて年間何本くらい使っているかと概算してみると、少なくても100本分以上にはなっていそうです。冷蔵庫には、お茶と無糖コーヒーがほぼ常備され、数日おきに新しいのと入れ替わっています。水(水道水またはスーパーなどの配給水)入りのペットボトルは、時折に新しいのと替えます。また、小型の物を買って飲むこともあります。私は多い方でしょうか、少ない方でしょうか。今のままで良いのでしょうか。正直なところよくわりません。
折しも今、COP26「国連気候変動枠組条約第26回締約国会議」(英国グラスゴーで2021年11月 1~12日)が開催中です。人類はどんな未来を見据えるのでしょう。
ペットボトルの行き着く先は、快適な生活でしょうか、汚れた地球でしょうか。
そんなことを考えながら、ペットボトルからカップに無糖コーヒーを入れる私です。当たり前になったこのスタイルを本当に変えられるのか、まだ答えを見出せずにいます。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
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<余談 あとがき>
思いがけず、月をまたいで3回の連載になってしまいました。
これで、『tn40.ネタ帳20210115 5つの話題宣言』
に記した話題は残り2つ。「AIの話」と「編み物の話」。
AIの方は、今年中に終わりそうにないです。書きかけの内容も、内容がバラバラでどうなることやら。
次に取り上げるのは「編み物の話」の予定です。