近況17.痩せ型父のCPAPと家の間取りの話
一般に「間取り」とは部屋の配置の仕方を意味しますが、時に人間関係の在り方や人生にも影響することがあります。
3月下旬、痩せ型の父が睡眠時無呼吸症候群(SAS)の重症と診断され、医療器具CPAP(シーパップ)を着けて寝るようになりました。しかし、CPAPに慣れるのは容易ではなく、一ヵ月弱を経た今でもなかなか眠れない夜があります。
その辺りの詳しいことは
近況16.痩せ型80歳の父、CPAPに悪戦苦闘する 教えるは教わる(2)
に書いた通りです。
最近の痩せ型父のCPAP状況
最近ではようやく、一晩中CPAPを装着して眠れる日も出てきました。夜中にトイレに起きることは毎日あるのですが、かつて「絶対に眠れない」と言っていた父が「少しは眠れることもある」を経て「ぐっすり眠れることもある」と変化してきたのです。
ただ、日によってずいぶんと眠りの質や、眠るまでの経緯に違いがあり、今はこれが悩みの種。先日も
「眠れる日もあるのに、今夜に限ってどうしても眠れん。」
そんな不満を言いながら、私の部屋の前の廊下を通ってトイレに向かいます。
私に言わせれば、今でもぐっすり眠れることの方が少ないので、全然「今夜に限って」の話ではないのです。また、その夜1回目の寝入りを父の傍らで確認していたので、眠れていないはずもありません。
父は思い込みが強過ぎることがあります。その夜も「今夜に限って眠れない」が「もう今夜は眠れない」という思い込みになってしまうのではないか?と心配になりました。トイレの後でCPAPを装着して寝る父の傍らに座り、寝入るまでじっと様子を伺います。
調子よく眠れるときは、ほんの数分でCPAPの音と父の呼吸は安定します。口止めテープの隙間からシューと音を立てて幾らかの空気は出るものの、CPAPと呼吸のリズムが合って、落ち着いた感じになります。
寝付けないときは、閉じた口からぷっぷ、ぷっぷと息が出たり、唇が震えてブブブブブと音がしたり、喉がガラガラ鳴ったりします。そして、その音を止めるべく口を閉じるのですが、それは父が自分の意思で閉じているようで、大抵の場合、眠れていません。場合によっては1時間半を超えて続き、「だめだ、寝られん。」と起き上がることもありました。
その夜も後者でした。まったく寝入れないようです。父が寝入っていないのに私が部屋を出ると、CPAPを止めて寝てしまうこともあります。ですから、ひたすら父が寝入るのを待ちます。結局、3:30まで待ちましたが眠ることは叶わず、二度目のトイレに行くと起き上がりました。そして、私がまだ寝ていないことを知ると、父は今日はもう起きるようにするから、私に隣の部屋で寝るように言うのです。
父は起きているつもりでも、横になると眠ってしまうことは多いです。特に、CPAPを着けるようになって以降、CPAP無しで眠るといびきも無呼吸も増えている気がします。ですから、私は心配で父の言うことを素直に受け止めることができません。
アメリカのある研究ではSAS患者を18 年間追跡調査したところ、CPAPの必要な人の死亡率は健常者の3.8倍、心血管系のトラブル(脳卒中、心筋梗塞等)が5.2 倍の発生率になったそうです。SASの人がCPAPを着けない場合、さらに発生率が上がります。
(参考)http://www.shunkaikai.jp/sleep/pdf/012.pdf
私としては、何とかCPAPを着けて寝て欲しいところです。ただ、装着を強い語気で強制しても、反発心からより寝付けなくなりそうに思えて、トイレに行ったから一つ気掛かりが減って眠れるかもしれないよ等の話をしました。
それでも、眠れるはずがないと言う父に、眠れなかったら私も気になって眠れないと返すと、仕方が無いという感じでCPAPを着けて寝ました。眠れてはいなくても眠気があった父は、案の定、その後十数分で寝付きました。それを見て、私もようやく隣の部屋で床に入ったのです。
「間取り」で変わること
父の独り言に気づけた
今週のお題が「間取り」とのことで、ふと思ったことがあります。今、私の部屋と父の部屋、トイレは下の図の状態です。(なお、今年、兄が部屋で寝たのは後述の一度だけです。)
もし、父の部屋が私の部屋と入れ替っていてトイレに近かったら、
「眠れる日もあるのに、今夜に限ってどうしても眠れん。」
の独り言を聞き逃していたかも知れません。これを耳にしたからこそ、私は父特有の思い込みが発動したと考えて、眠れなくなることを予想したのです。聞き逃していたら、眠らぬ父にいら立って、起きるまではCPAPを着けて眠れていたのだからまた着けるようにと、強い言い方をしたかも知れません。
強制するとどうしても反発心が起きます。そのせいで3度目の就寝で父が眠れなかった可能性もあったなと思ったのです。
兄が父の寝る様子を見に来てくれる
また、兄に父の様子を見に来て欲しいと頼んだ時、兄の寝る部屋は私の部屋の父の部屋とは逆隣になりました。私が中学生、兄が高校生だったときの配置と同じです。(兄の寝る部屋は高校時代に私が使っていました。)
兄は一緒に、父の傍らで寝入るのを見届けてくれました。
一度目の寝入りの後、私の部屋で兄としばらく話をしていました。でも、その日は父がトイレに起きることなく深夜0時を過ぎたので、翌朝に用事があった兄にはもう寝ていいと話しました。
兄が床に就いてしばらく後、私も寝る前にトイレに行っておこうとローカの電灯をつけると、兄の部屋のドアが開いたままです。ローカの明かりに兄が気付きました。
「トイレになったのか?」
と声がかかりましたが、私が返事をすると、父と思ったとの返事。兄の言うのには、ドアを開けていた方が父の動いた音が聞こえるからそうしているとのことです。
高校時代、朝型学習だったので、夜、両親の話し声やテレビの音から離れたいという思いや、朝、私の音で両親を起こしたくないという思いがありました。それで、兄が社員寮に移り住んだ後、この部屋を使い常にドアは閉めていたのです。ドアを開けて寝れば父の気配に気づき易いのは納得でした。
歯も磨いて床に入りかけた時、父がトイレに起きました。私と兄がほぼ同時に部屋から顔を出し、二人で父が起きたみたいだと目で合図し合いました。この感じ、40年以上ぶりです。あの時は、両親が寝たのを察した後、深夜にこっそり兄とトランプや将棋で遊んでたこともありました。
間取りは、その当時の家族の関係や思い出にも深く影響していると思います。もし、40年前、私の部屋と兄の部屋で両親の部屋を挟んでいたら、夜中の移動はもっと慎重になっていたでしょう。
結局、二人で父が二度目に寝入るのを確かめました。
家の間取りが父を守ってくれているようにも思えたのでした。
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<余談 レム睡眠と兄>
その後、私の部屋で兄と少し話しました。父がトイレに起きるまでに3時間ほどあったからよく眠れているんじゃないか等と話していると
「多分、レム睡眠もあっただろう。」
と兄。私は思い出したことがあって、ちょっと笑いそうになります。
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それはこんな記憶です。
私が中学生だったか、「レム睡眠」を夏休みの自由研究にしようと考えました。テレビの情報番組で得た「レム睡眠では、睡眠中にまぶたを閉じたまま、目がごろごろ動く」という話を確かめたかったのです。
その頃、兄とは別の部屋だったのですが、私の部屋にはクーラーがあり、寝苦しい夜は一家四人が狭い中で寝ることもありました。その夜は、私と兄の二人でした。自由研究に取り組むのはいつも夏休み終盤です。両親はそれほど寝苦しくなかったのでしょう。
床に就く兄を横に、私はすることがあると誤魔化していたのですが、しつこく兄に問われて、兄の寝入りと、レム睡眠を見るつもりだと白状したのです。
すると兄は「お前が寝るまで寝ない」と言い始めました。ラジオだったかカセットテープだったかで、歌を流して小声で歌っています。
部屋の明かりはつけたままですし、これは、なかなか眠ってくれないなと覚悟したのですが、兄は歌の一番を歌った後、二番を歌いません。兄を見ると、どうやら、間奏の間に眠ってしまったようでした。可笑しくて笑い声をあげないのが大変でした。眠る瞬間は不意に訪れるものだと知りました。
レム睡眠の周期は約90分です。その頃を見計らって、兄の枕もとで様子を見ていました。すると、まぶたの下で目玉がぐるぐると向きを変えます。とても不思議な現象を見ているような気がして、ちょっと感動しました。でも、急に兄が目を覚まし半身を起こします。私はむしろこれはチャンスだと思い、今夢を見ていなかったか、どんな夢だったか尋ねました。
兄は、不機嫌そうな顔をしながら
「夢を見ていた。蜂に追われる夢だった。」
と教えてくれたのでした。
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父のレム睡眠に言及した兄に、私が兄のレム睡眠を観察していたことを憶えているかと聞くと、「憶えている。」とのこと。そして、「蜂に追われる夢だった。」と付け加えました。
40年以上前に兄が見た夢の話を、今でも兄弟二人が憶えていることがなんだか嬉しくて、記しておくことにしました。
(なお、レム睡眠を邪魔された朝、兄は不機嫌でした。テレビでもレム睡眠を邪魔されるとストレスが溜まると言っていたので、観察する場合は要注意です。)
今週のお題 「間取り」