「雪見だいふく」登場!
新商品名を知ったとき「これは絶対失敗するだろうな」と思ったのが、1981年10月発売のLOTTE「雪見だいふく」です。
謎と不思議
まずは、「雪見」。雪は冬に見るものです。何故、寒い冬に冷たいアイスクリームが売れると考えたのだろうと謎でした。
そして、「だいふく」。冷えると固くなる生地で冷たいアイスを包んでどうするんだろうと不思議でした。
アイスの革命の旗手
当時は気づきませんでしたが、「雪見だいふく」はアイスクリームの革命を起こした旗手だと言えます。それは決して無謀な挑戦ではなく、アイス事情の転換点をつかんで、ピンポイントで狙い撃ちし、成功を納めたのだと思います。
当時のアイスを売る側の事情
記憶違いがあるかも知れませんが1981年だと、夏にだけアイスを販売して冬は販売をやめていた店もそれなりにあったはず。
冬にアイスが売られていなかった時代
1970年代後半、夏休みは終わっていましたが、かなり汗をかいたので、アイスクリームを買おうと店に行ったことがあります。当時は上部のガラス戸を引いて開けるアイス用ショーケースが主流でした。しかし、店に入りケースを見ると、なんと引き戸には鎖と南京錠がかけられ、ガラス戸は段ボール紙で覆われ、その上に電源プラグが置かれていました。これには、かなり衝撃を受けました。
店の人にアイスクリームは無いの?と聞いたら、「アイスは夏だけ。秋になったらあんまり売れないし、冷凍庫の電気代で赤字になる」みたいな話をされました。聞きたくもなかった店の裏事情まで知ってしまったのです。
残暑の中、冷たいアイスを求めたら、受けたのは冷たい仕打ち。
ああ、夏が終わればアイスの販売も終わるのだなと、思い知りました。
冬のアイスはあり得ない
その後、夏が過ぎても売っている店は増えてきていたとは思います。それでも、それは夏のアイスが売り切れず、だらだらと販売を続けているだけだと思っていました。冬のアイス販売は損をするという思い込みがずっとありました。
たとえ買えたとしても、冬の寒さに耐えながらアイスを食べるなんてありえないと思っていました。曖昧な記憶ながら、冬アイスにチャレンジした時、震えながら食べたような。持って帰る発想がなく、すっかり夜になっていた店先で食べたのが原因でしょうけれど。
とにかくそんなタイミングで「雪見だいふく」の登場です。
雪の降る寒さの中で食べる、冷たくて固いアイス入り大福・・・。
買う気も食べる気も起きない代物に思えたのです。
当時のアイスを食べる側の事情
アイスは生ものより傷みやすかった
私が小学生だった1970年代前半、少なくとも我が家ではアイスは保存できない物でした。刺身などの生ものよりも、傷み?が早く、買ってきたらすぐ食べるのが当たり前。冷凍庫で氷を作ることはできるものの、冷凍食品や、アイス類は保存できないと母から聞いていたのです。
すぐ溶けたアイスキャンディー
その頃、夏になると自転車に乗り、チリンチリンと手持ちの鐘を鳴らしながら「うまいアイスキャンディー、さん、じゅぅうえん(30円)じゃぁあ!」と売るおじさんがいました。自転車の荷台に木の箱(多分、中はある程度保冷が効く構造)を乗せ、その中にいろんな味のアイスキャンディーが入っていました。
冷たくて、当時の小遣いでも手の届く値段だったので、よく買いました。でも、自転車を走って追いかけて手に入れたアイスは、その場ですぐ食べないと、どんどん溶けていきます。家に帰り着くまでになくなります。というか、家の中では溶けた液をぽたぽた落としながら食べるのは禁止でした。
家に帰るまでに食べ終わるアイスなのですから、かなり溶けやすい状態で売られていたのでしょう。今思えば、売られていたのがアイスキャンディーではなく、アイスクリームだったなら、トロトロになって売れなかったはずです。
給食のアイスクリーム
学校の給食でアイスクリームが出たことがありました。普通のおかず等とは違い、配膳の後、一番早く食べ終わった子が給食室まで取りに行くルール。学校放送で、溶けやすいアイスクリームは食後に持って行くよう、注意が呼びかけられていました。
最初の子が取りに行くタイミングが、気がかりでした。まだ好き嫌いが多かった頃ですから、食べ終えるのにかなりの時間がかかります。結局、溶けてしまうから先に食べていいとの先生からのお許しを待つ状態でした。トロトロの中に残っている塊を先にすくって食べ、残りを飲んだ記憶があります。
冷蔵庫事情は変わったものの
丁寧に考えれば、1980年頃、世の中の冷蔵庫事情はかなり変わってました。友人の家では冷蔵庫からアイスクリームを出してくれたこともあったのです。ただ、我が家は貧しいという母の言葉を真に受けて、アイスクリームが保存できない冷蔵庫のまま。使える物は使えなくなるまで使う方針だったので、新しい冷蔵庫の購入を見送り続けていたのでしょう。ただし、それに気づくのはもっと後です。
母は、私の弁当に冷凍食品をほとんど使いませんでした。母の冷凍食品嫌いと冷凍保存が効かない冷蔵庫、他にも複数の理由があったと思いますが、アイスクリームは家で保存できないイメージが続いていたのは確かです。
「雪見だいふく」が起こした革命
初めて食べた記憶
初めて「雪見だいふく」を食べた時間や場所は憶えてません。
ただ、本当に冷たくて柔らかいのか?と疑問に思いつつ、見た目に粉が凍りついていない感じに見え、続いて指で突っついてみると弾力があったのに驚き、怯んで指を引っ込めた記憶はあります。「おぉ~!」と思わず声が出たような。
で、手に持って一口食べた時に表皮の生地が、予想以上に伸び、中のアイスが柔らかかったのが印象的でした。(ある程度、溶けていたのかも)
口の中では、それまでのいろんな思い込みも一気に溶けて行く感じでした。
かつてのアイスキャンディーより冷たくて、給食のアイスクリームより歯ごたえがあります。噛むたびに生地からアイスクリームが押し出される食感は、脳内で鎖と南京錠で閉じられ段ボールで覆われたアイス用ショーケースが開け放されてアイスがあふれ出す感じです。
あの時うけた冷たい仕打ちも、アイスと一緒に何度か噛みしめて味わい、ごくりと飲み込みました。
一口食べただけですが、冬のアイスを認めるしかありません。
それは、新たなアイスクリームの時代の幕開けでもありました。
まさに、アイスの革命と言っても過言では無いでしょう。
「雪見だいふく」と一緒に生活が変わった
実のところ、我が家の冷蔵庫が新しくなったのと、「雪見だいふく」を食べたのと、どちらが先なのかはっきりしません。ただ、似たタイミングで、家でアイスクリームの保存が可能になったのは確かです。
やがて、当時も高級アイスの地位にあったレディーボーデンが家に常備されるようになりました。大きめカップに入ったアイスクリームの塊。それは、好きな時に好きな量をスプーンで削ぐようにすくいとれる食生活を連れてきた証。
映画『クレイマークレイマー』(1979年)で、アイスクリームを巡って父と子が対立するシーンがあります。遠い海の向こうの日常が、目の前にやってきたのです。怒られるんじゃないかと思いつつ、毎晩のように風呂上りに食べてました。
他にもコーヒーフロート、クリームソーダ、クリームコーラにしたり、ビスケットやパン、ご飯にのせて食べたりもしました。そう言えば、面白がって、カップやきそばにも入れましたね。どんな味だったか覚えてませんが、ほどなくして無謀なチャレンジはしなくなりました。
ただ、まだしばらく、お弁当にも食事にも冷凍食品はほとんど使われないままでした。
冬アイスは今
2020年6月の今週のお題に「私の好きなアイス」が、去年8月には「わたしのイチ押しアイス」がとりあげられています。
(↓その時の記事)
確かに、夏にアイスは定番。でも、昭和時代に成人した私が言うのもどうかと思いつつ、夏にだけアイスのお題という感覚は、なんとも昭和まっただ中な感じもします。
冬アイスの売り上げ傾向
ある統計では、日本の夏期3ヶ月間のアイスクリーム消費量は年間の50%に届いていないとのこと。夏と夏以外で比べれば、夏以外の消費の方が多いのです。
また、高級アイスのブランド、ハーゲンダッツは、1984年に登場して以来ずっと一番たくさん売れるのは12月とのこと。(2019年の年末の記事)
森永乳業の≪冬アイスに関する意識調査≫
それだけではありません。
2016 年 11 月の森永乳業の≪冬アイスに関する意識調査≫では、「冬にアイスクリームを食べたいと思うか」の質問に、98.4%の人が食べたいと思うと回答しています。その理由の一番は「部屋が暖まると冷たい食べ物を食べたくなるから」で、「夕食後」と「お風呂上り」に食べることが多いとのこと。また、冬に夜食を食べる人全体の中では、「アイスクリーム」が 1 位、「ラーメン」が2位です。(男性だけの1位はラーメン)
また、
夏アイスで好まれる“特徴”は『食感がシャリシャリ』『味がさっぱりしている』、
冬アイスは『食感がなめらか』で『味が濃厚』が人気!!
と住み分けができている風でもあります。
参照URL(PDFファイル)
https://www.morinagamilk.co.jp/download/index/18748/161110.pdf
「雪見だいふく」で大きな流れとなった冬アイスは、今やすっかり当たり前になっています。冬アイス革命を起こした「雪見だいふく」の話を夏にするのはどうかと思いつつも、「私の好きなアイス」から外せないアイスとなっているのです。
今週のお題「私の好きなアイス」