tn198403s 高校時代blog

「人生に無意味な時間は無い。ただ、その時間の意味を感じることなく生きているだけである。」この言葉を確かめてみようと、徒然なるまま、私の高校時代(1984.03卒業)の意味を振り返り綴るブログです。

青春のすごいニオイと思いがけない笑い

この雨合羽、どこかが破れているんじゃないか--。

高校時代に何度、そう思ったろう。雨の日に合羽で登校してそれを脱いだ時、腕はびっしょりと濡れていた。私の身体は思いの外、汗をかく。学生服の下のワイシャツが腕の肌にぴったりと貼り付いたと思われる程だ。急いだせいもあるだろうが、雨除けに合羽をきっちりと着てるのに、シャツが濡れてしまうのはなんとも割に合わない。

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中が濡れてしまう雨合羽

雨で濡れた方がまだマシじゃないのか--。

合羽を自転車のハンドルからサドルに掛けながらそう思う。しかし、それよりさらに深刻な問題があった。身体中から立ち上る水カビのようなニオイと汗のニオイに閉口してしまうのだ。

合羽と一緒にニオイも脱げたらいいのに--。

15歳の少年にとって、このニオイはずいぶん恥ずかしいことに感じられる。学校の駐輪場から生徒用の玄関まで、雨に濡れながら小走りする。

この雨で、ニオイが流れ落ちてくれないだろうかーー。

だが、そんな願いはかなうこともなく、玄関に到着し、スニーカーを脱ぐ。その時に濡れた靴の匂いが立つ。靴下の上にはいたビニル袋を取る。雨がスニーカーに染み、更に靴下を濡らさないようにしていたのだが、通気性が悪い分、足が蒸れやすいのか、それまでのニオイとは別のニオイが立つ。

 

何も、私だけがそんなニオイを出していた訳ではなかったはずだ。雨の日の高校の玄関には、既にいろんなニオイが充満しているように思われた。しかし、そのニオイの全部が私から発せられているかのように感じられ、一刻も早くそこから遠ざかりたかった。

それなのに、教室に向かう足取りは重い。誰かから水カビと汗の混じったニオイを指摘されるのではないかとびくびくしていたのだ。

廊下ですれ違う生徒の笑い声が、私をからかう声のように思われ、足早に廊下を急ぐ生徒の姿が、私から遠ざかろうとする姿に思われる。 まだ高校生活に馴染めず「クラスに友達がいない」と母にこぼしていたらしい頃の事だ。劣等感の塊だった私は極力目立たぬ様、身を潜めていたかった。ニオイを指摘されるなど、あってはならないことだった。

 

この日も幸いにして、誰からの指摘もないままに、教室の自分の席に座ることに成功した。濡れていた腕も幾分乾いてきたようである。もしかすれば身体にまとわりついたニオイは、幾らかおさまっただろうか。そんなことを考えながら、ふと左手の腕時計が気になった。しまった。腕時計のベルト付近から強烈なニオイがしている。水カビと蒸れた汗に加え金属のニオイまで混ざっている。すごいニオイだ。何とかしなければと、手首を洗うために席を立った。

 

廊下の手洗い場のレモン石鹸を使い、ごしごし洗っていると、不意に教室から大爆笑が聞こえてきた。

ニオイを気にする私のことを笑っているのではないかーー。

血の気が引くような感覚に陥り、心臓がバクバクする。精一杯の平然を装いながらハンカチで手首を拭き、恐る恐る教室を覗き見た。

 

クラスメイトの一人が教壇に立って、学生服をみんなに見せている。

その隣でワイシャツ姿になった長身の少年は、困ったように笑っている。学生服の持ち主であろう彼は、

 「いやあ、まいったよ。こんなになってるとは思わなかった。」

と、バツが悪そうにぽりぽり頭をかいてる。

「なかなかカッコいいんじゃないか。」

「暴走族にも一目置かれそう。」

「特攻服の新しいデザインになるかもよ。」

「あだ名は“○○校のヒョウ”で決まり。」

 等々、クラスメイトは大盛り上がりだ。

 

教室に入り、披露されている学生服の背中を見るなり、私も顔がほころんでしまった。まさに黒地に金色の点々を刺繍しているかのように、ヒョウ柄の学生服になっていたのだ。何故そんな模様になっているのか急に気になって、自分のニオイも忘れ、近づいてじっと見る。

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ヒョウ柄の学生服

私には、気になると不意に吸い寄せられるように近づいてしまう変な癖がある。恥ずかしながら、54歳の今でもそれが続いている。

結果、私に染み付いているものとは別のニオイに気がついた。

(泥のニオイ…)

よく見ると、金色に見えるのは、泥の跳ね返りだったのだ。それが大小の点になって学生服にくっついている。その粒の大きさと量の加減がなんとも絶妙で、ヒョウ柄風に見えていたのだ。

 

長身の彼は誕生日が早く、既に16歳。原付免許を所有している。通学距離が長いため、原付バイクでの登校が許可されていた。家を出た頃はまだ雨が降っていなかったらしく、学生服のままバイクに乗っていたが、途中で雨が降り出したのだという。それほど強い雨でもなかったので、何とかなるだろうとそのまま乗り続けている間に、泥ハネが絶妙な加減で学生服の背中をヒョウ柄にデザインしたらしい。

 

背中に起きたことなので、長身の彼はまったく気づくことなく教室まで来た。最初はクラスメイトも気づかなかったが、ロッカーに向かった彼の後姿を見て大爆笑が起きたのだ。

 

何のことはない、私があれだけ気にしていた水カビや汗、金属のニオイは、泥のニオイですっかり忘れ去ってしまっていた。いや、泥のニオイでは無い。それによってもたされた教室の笑い、雰囲気が、すごいニオイを遥か遠くに流してくれたのだ。

 

 

ニオイに勝る雰囲気、空気を作る力が笑いにはある。

高校時代のニオイを思い出すのに苦労したのは、その多くが笑い等の感情に流されていたからかも知れない。そう思った。

 

 

 

 ところで、そんな笑いが起こせなかったときには、これを使うといいらしい。

「すごいニオイ」#ジェットウォッシャー「ドルツ」


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