tn198403s 高校時代blog

「人生に無意味な時間は無い。ただ、その時間の意味を感じることなく生きているだけである。」この言葉を確かめてみようと、徒然なるまま、私の高校時代(1984.03卒業)の意味を振り返り綴るブログです。

映画11.『時をかける少女』と『転校生』と『君の名は。』

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大林監督作品『時をかける少女』(1983年)は『転校生』(1982年)より後の作品ですが、私の見た順序は『時をかける少女』が先だったはずです。『転校生』は高校卒業後にテレビ放映を観たように思います。

 

時をかける少女』は、映画デビューにして主演となった原田知世の角川作品。映画館で観たのは1983年8月24日でした。後年知ったことですが、映画の企画段階で、プロデューサーの角川春樹は「彼女(原田)に1本だけ映画をプレゼントして引退させようと思う」と大林宣彦監督に伝えたそうです。また、原田知世は『転校生』の大林監督がお気に入りだったそうで、「尾道で原田の映画を撮って欲しい」と願い出たとのこと。

 

それが功を奏したのでしょう、いろんな意味で、印象に残る作品になったと思います。

 

作品は、尾道市を舞台にして、不思議な経験に悩む少女と謎めいた少年を中心に話が進みます。少女は地震やぼや火事、テストの問題など、過去に経験したはずのことが繰り返し起きるのを不思議に思います。翌朝、それらが夢だったと思うのですが、夢で見た地震や火事が実際に起きていきます。混乱する少女は、不思議な経験を少年に話しますが、少年の答えや手の傷等、つじつまが合わないことは多く、謎は深まるばかり。やがて少年から本当の話を聞くことになりーー。

 

同時上映は、同じ角川映画で生まれたアイドル、薬師丸ひろ子主演の『探偵物語』。上映前は、原田知世薬師丸ひろ子の二番煎じ、『狙われた学園』と同じSF学園物で新鮮味が無いなどと言われていました。

  

しかし、SFと言いつつ、レトロな尾道市の雰囲気や、印象的な振り子時計、白黒とカラーを効果的に組み合わせた映像、「桃栗三年柿八年」を古い歌として使ったりした演出、活発な少女が流行していた中での控えめな原田知世の起用等が成功し、独自性のある作品になったと思います。

 

探偵物語』との二本立てで、配給収入が28億円。1983年の邦画興行成績2位でした。原田知世は、第7回日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞。また主題歌「時をかける少女」のレコードは、セールス累計58.7万枚のヒット曲に。一部に批判もありましたが、映画も女優も歌も一気に売り出す角川映画の手法が大当たりした感じです。公開当初、『探偵物語』目当ての観客の方が多かったかもしれませんが、鑑賞後、印象に残ったのは『時をかける少女』とした人も多かったように思います。

 

中学3年生の男女が入れ替わる『転校生』を尾道で撮影した大林監督は、二度と尾道では撮らないと考えていたそうですが、角川春樹からの提案で「よし『転校生』で撮った尾道の海と明るさは撮らず、山と暗さだけを撮ろうと決めました。」と考えを変え、結果「この映画と知世は天の配剤めいていた」と言わしめたのです。(ウィキペディアより)原田知世尾道の組み合わせは一つの奇跡であるとは納得できる話でした。その後『さびしんぼう』を撮影し、尾道三部作となりました。

 

 

さて、その翌年テレビで観た『転校生』は、中学生の男女の人格が入れ替わるという作品。入れ替わった後の小林聡美の演技には驚きました。水着のブラを忘れたままおどけるシーン、本人はかなり嫌だったそうですが、それをみじんも感じさせず、本当に少年が演じているように思えました。ただ、恥ずかしがらず大胆かつコミカルに演じたのは、彼女にとって諸刃の剣となったように思います。

 

コミカルな演技が強烈に光っていたため、一気に名前が知れ渡った反面、小林聡美本来のシリアスな部分に注目が集まらず、しばらく喜劇的な配役を回され、彼女の良さが隠されてしまったと思うのです。でも、私は『転校生』の演技の中で一番印象に残っているのは、元に戻った二人が離れ離れになったときの「さよなら、あたし」と言うラストシーンです。 撮影の順序がどうだったのかは知りません。でも、離れ離れになる寂しさを残しつつも、これでよかったのだと弾むような感じ、それらがとてもよく伝わってきて、一本の映画を演じきった満足感もあったのではと思いました。

 

『転校生』は尾道の海と明るさを撮ったと大林監督は語っていましたが、それは小林聡美の見事な演技によってできた気がします。それは彼女のコミカルな明るさ満載というより、本来のシリアスさを見事に封印したからと思っています。

 

 

大林監督のそうした『転校生』の明るさと『時をかける少女』の暗さとを見事に融合、昇華させたと思う映画があります。既に一部で言い尽くされた感がありますが、新海誠監督の『君の名は。』です。もちろん、パクリ等とは思っていません。それを言っていたら、「タイム・マシン」が出てくる作品『ドラえもん』や『バック・トゥ・ザフィーチャー』は、H.G.ウェルズのパクリになってしまいます。これらは、過去の作品のオマージュだったり、過去に発見された食材を使った新しい料理といった風に考えるべきでしょう。

 

言いたいのはそこではなく、ヒロインの共通性です。『君の名は。』の宮水三葉は、大林監督の言う『転校生』斉藤一美の明るさ(ちょっとややこしいですが、ここでの斎藤一美は、中身が斎藤和夫になった状態と元に戻った後の明るさの両方)と『時をかける少女』芳山和子の暗さの両方を併せ持った感じがします。つまり、都会に憧れてはしゃぐ部分と、糸守町の伝統をしっかりと受け継ぐ部分。この両方を観られる、いや、両方に魅せられる贅沢さは、こんな手法があったか!と衝撃でした。

 

また、入れ替わった立花瀧の恋の応援や手助けをしたり、糸守町の危機に勇気をもって立ち向かったりの部分は、大林監督の2作品では弱かったので、痛快に思えました。もっとも、『転校生』は中学生の男女の入れ替わりで、『時をかける少女』は時空を超えていたのだという話でした。1980年代は、男女が入れ替わること、時空を超えること、それぞれが、観客に伝わるかどうかの大いなる挑戦のはずですから、あの時代に、二つをくっつけた作品に挑むのは厳しかったでしょう。もっとも、撮影技術、作画技術も追いつかなかったと思います。

 

加えて言うと、『君の名は。』では、都会や田舎の細部への描写も成功していました。街の細部に至る再現は角川アニメ『幻魔大戦』(1983年)から始まったように思います。1980年代はまだ、アニメで現実感にこだわる描写には批判的な声が強くありました。それは、セルアニメが中心で、色のグラディエーションや立体感を含めた表現したい絵と表現できる技術に乖離があったことも影響していた気がします。また同じように細部の描写について、高畑勲ジブリ作品『おもひでぽろぽろ』(1991年)でも少し話題になったと記憶していますが。その時もまだ、どちらかと言えばもっとアニメらしいのびのびしたデザインがいいのではという声が強かったよう思います。

 

 

あら?あれこれ書いている内に、何をメインを書こうとしていたのかあやふやになってきてました。

 

 書きたかったのは、『君の名は。』が、『時をかける少女』と『転校生』を単にストーリーやスタイルの部分を足し算しただけではないということです。また、『君の名は。』が成功したのは、二作品の影響は大きかったとしても、独自のスタイルが確立されていたからということ。『時をかける少女』と『転校生』と『君の名は。』は、それぞれが輝きのある作品だったからこそ、互いに引き立てあっていると思うのです。

 

ネットの一部で見かけた、『君の名は。』が『時をかける少女』と『転校生』のパクリとの表現には賛同できません。むしろ、私は『時をかける少女』と『転校生』に思い入れがあるだけに、『君の名は。』が一層、素晴らしく感じられました。この三作品を時代に応じて、しっかり観られたことを嬉しく思います。