国語(現代国語)の教科書に載っていた話だと思います。教科書類は、ほとんど処分してしまったので、内容を詳しく確かめることが、すぐにはできません。でも「粋な旋盤工」は、印象に残っている数少ない教材の一つです。
ジャンルとしては評論にあたるでしょうか。内容的には、日本の高度経済成長を支えたものづくり労働者への哀歌と賛歌。劣悪な労働環境の下でも、自らの誇りを持って旋盤を回し、粋な仕上げにこだわる職人。しかし機械化の波に押され、職人の数も減っている。それでも、なお、まだ機械化できない職人技の完成をめざし、懸命な努力をしていく人たちもいる。そんな話だったと思います。教科書に載っていた文章は、原文の抜粋やまとめがあったのかも知れません。
この話は、私にとって、今でも町工場職人のイメージの原点になっています。当時、建具の製品などを作る工場に勤めていた母の姿と重なったことも、強い印象に残った理由のように思います。
最近、池井戸潤氏原作のドラマが人気です。特に「半沢直樹」で高視聴率を取った時には、「やられたらやりかえす、倍返しだ。」等の台詞が社会現象ともなりました。「倍返し」は銀行員の台詞であって、町職人の言葉ではありません。しかし、彼の実家は町工場で、銀行の融資を受けられず倒産、父が自殺に追い込まれた過去があります。父は、「人と人とのつながりを大切にし、ロボットみたいな仕事だけはしてはいけない」という言葉を直樹に遺していました。
当時、毎週の放送を観ていたのですが、国語の「粋な旋盤工」に、かっちり繋がっているように思われました。池井戸氏の他の作品「下町ロケット」や「陸王」、「七つの会議」等、どれも素人にはわかにくい下町の高度な技術が、日本の経済成長を支える要となっていることがあることを取り上げています。氏はそうした町職人にしかできないこだわりの仕事に熱い視線を送っています。それは、まるで「粋な旋盤工」の現代版のようにも思われるのです。
ところで、授業では、話のまとまりごとにタイトルを考えるという課題がありました。最後の場面のタイトルを「粋な旋盤工の粋な挑戦」と発言したところ、先生がしばらく沈黙して、「いいねぇ、それ。」と言ってくれたのを覚えています。高校の授業でほめられるというのは、私には数少ないことだったので、それも授業を憶えてる理由の一つかも知れません。
町工場を取り巻く環境は、授業を受けていた頃よりも、一段と厳しくなっているはず。でも、町職人の粋な姿は、細々であっても、尚、脈々と受け継がれているような気がします。むしろ、池井戸作品によって、今になって、「粋な旋盤工の粋な挑戦」が、その成果を発揮しているような感じもして、少し嬉しくもあります。「映画4.“ I am a human being !”」の繰り返しになりますが、もう35年以上前の話なのに、何がどこにつながっているのか、不思議なものです。