この記事は「満月ではない今年の中秋の名月(1)十五夜って本当に満月?」の続きです。
今回は月齢についての話が中心になります。
月齢を知り、さらに混乱する
新聞の暦欄の月齢に関心を持って見るようになったのは、働きだしてからです。小数で表示されていましたが、誤差があるからだろうくらいにしか気にせず、1日経てば大抵、月齢も1増えるのを当たり前だと思っていました。
でも、ある夜に気づきました。新聞に書かれた月齢は朝見ても、夜見ても同じですが、朝と夜では0.5日違います。月齢は時間に合わせて刻々と変わるんじゃないか。朝8:00の月齢が4.8だったなら、夜の8:00は5.3になっているはずです。新聞の月齢は何時のことなんだろう?
調べてみると、正午の時点での月齢だとわかりました。
ん?満月であれば、月の見えていない時刻の数値です。何か違和感があります。
20時に月を観るとすると、その日の新聞の月齢+0.3だと考えていいのでは?ならば、新聞にある月齢が15.3だった時、前日20時の月齢14.6と、その日の夜20時の月齢15.6とでは、どちらが満月に近いのでしょう?
いや、待て。そもそも十五夜が満月だとしても、月齢15.0が満月なのか?
十五夜は、新月の日を1として数えます。対して月齢は、ズレのない新月だと、0.0から始まります。ならば、十五夜は月齢14.0のはず。え?じゃあ満月の月齢は14.0?
いやいやいや、十五夜が満月なら、一ヶ月が28日になってしまうから変だという前回の話はどうなった?
まだ、世にインターネットが存在しなかった頃ですから、調べることも上手くいかず、この謎は詳細不明なまま、長らく放置されることになりました。
月齢の最高値を知る
そこで、最近になってあらためてネットで調べてみました。
月齢の最高値は30より少ない平均29.53(つまり変動する?!)でした。
なんだ、28より30に近いんだと、今さらびっくり。
一月が29.53日となるなら、1年は29.53日×12か月=354.36日です。
1年365.2524日より10.8924日≒11日のズレが生じます。
なるほど、旧暦で約3年で約33日生じるズレを無くすのに、閏月を挿入するなら大体の計算が合います。大体でいいとする大らかさが、昔はあったのでしょう。
月齢のさらなる不思議
月の軌道はかなり複雑で、一月(月の満ち欠けの周期)は29.27日から29.83日の幅があるそうです。地球の軌道に比べるとかなりいい加減です。(地球の1年の日数については過去記事を参照)
しかし謎が残ります。仮にある時の月齢の最高値が29.5だったとして、ある日の月齢が29.0だったなら、その翌日の月齢はどうなるのでしょう。もし、0.0から始まるのなら、1日で0.5しか月齢が増えないことになります。
それにしても、日常の中で地球の公転の小数部分の0.2425日を気にすることはないのに、満月を考える時に月齢の小数点以下がやたらと気になるのも不思議な感じです。
満月カレンダーで確かめる
2020年8月16日から10月3日までの満月カレンダーを編集してみました。
紅い枠の2020年8月18日の月齢が28.4で、19日の新月が0.0です。一見、1日で月齢がずいぶん進んだように思いますが、この時の最高月齢が29.4だったので月齢がリセットされたと考えれば合点はいきます。
青い枠の2020年9月17日の月齢が29.0で、9月18日はいきなりの0.7です。なんと新月が無いってことになります。でも、安心してください。0.7は正午の月齢です。その約17時間前の9月17日19:00頃に月齢が最高値に到達して0.0にリセットされ再スタートし、16時間後の9月18日の正午に、0.7になったと考えればいいようです。
上の図と下の図は、以下のURLから作成しています。
https://www.arachne.jp/onlinecalendar/mangetsu/2020/8/
https://www.arachne.jp/onlinecalendar/mangetsu/2020/9/
https://www.arachne.jp/onlinecalendar/mangetsu/2020/10/
満月の月齢
では、満月の月齢はどうなるのでしょう。単純に計算すれば、月齢の最高平均値が29.53なら、その半分の約14.8ということになります。その考え方で行けば、月齢は0.0から始まり14.8で満月になるように思いますが、新月の正午に月齢が0.0になるわけではありません。また、満月の日の正午に月齢が14.8になるわけでもありません。
一方、○夜という数え方は一夜から始まり、十五夜で満月になる前提ですが、実際は十五夜が満月でないことが多いです。平均の満月の月齢が14.8ですから、一夜の月齢が0.8だといいのですが、それだと、今年のようにその前日が一夜となってしまうため、十五夜が満月になる条件が揃う方が難しいという次第です。
一番月が欠けた瞬間「朔(さく)」(※1)の月齢は0.0ですが、一番満ちた瞬間「望(ぼう)」の月齢は13.8~15.8の間で変動するとされ、月月によって違いがあるそうです。( wikipedia 「月齢」より)
月の満ち欠けの周期自体、29.27日から29.83日の幅があるので望の月齢に差があるのは当然ですが、それでも範囲が丸2日分ですからかなり広いです。こうなってくると、素人の目で満月(望)の瞬間を見極めるのは、至難の業と言わざるを得ません。満月の夜、望を過ぎてから昇る月もあれば、夜空で望を迎える月も、望を迎えぬまま沈む月もありますが、場合によってどれも満月となりそうです。
今年の中秋の名月になる月の月齢が0.0になるのは、先述の通り9月17日の19:00頃。そのため、9月17日が一夜としてカウントされます。つまり、9月17日の月齢は28.4となっていますが、計算上ではー0.3とも言えるでしょう。そのため、十五夜に当たる10月1日の中秋の名月の月齢は13.7となります。ただ、実際に月を観る20:00頃の月齢は14.0となります。
その翌日10月2日の月齢が14.7で満月となりますが、月を眺める頃の月齢は15.0なので、一番満ちている状態(望)を少し過ぎているとも言えそうです。
2020年、中秋の名月の月齢は13.7
名月とは、満月とは
いろいろと書いてきましたが、結局、どんな月を名月とするか、満月でない月を名月と呼べるのか等、そんなことにこだわりすぎるのは、無粋という領域だと思います。
きっと中秋の名月を愛でてきた多くの人は、月齢がどうとか言わなかったはず。
人間の理屈で月の良し悪しを決めるより、目の前の月に自分の感性を靡(なび)かせることの方が風流だろうと思います。
ただ、だからといって、月齢の計算や満月の定義を考えることが無意味だとは思いません。むしろ、地球の1年を365.2425日とした一方で、月の満ち欠けの周期が曖昧なまま中秋の名月を思う、そのちぐはぐな感じが私は好きです。何も知らずに、中秋の名月を観ながら団子を食べた子どもの頃より、ずっと、月が魅力的に見えるのです。
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まあ、人によっては、なんとも微妙で、もやもや感が残るかも知れません。ただ、一般に言われる月齢と、何夜の数え方、そして目の前の月の見え方では、どうしてもズレができてしまうのは避けられないように思います。
もう少しすっきりできないかと、月に問えば、何と答えるでしょうね。
もしかすると、答えに窮してこう言うかも知れません。
「む~~ん(moon)。」
十五夜は満月かについて、詳しくはこちら(「こよみのページ」)
koyomi8.com
※1 訂正とお詫び
(初稿) (訂正)
「疎(そ)」の月齢は0.0 → 「朔(さく)」の月齢は0.0
私の思い違いでした。間違って記憶してしまった方がいたら、申し訳ないです。
すみません。
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<余談 月相>
月相(げっそう)と呼ばれる別の度合いがあります。月の公転によって、月面の輝いて見える部分が変化する様子を整数に置き換えた数値です。0~28の整数で表されるとのこと。これを知って、高校時代の1月は28日ではないかという仮説を補完してもらった気がして、少し嬉しくなりました。実際はだいぶ違いましたが。
新月の0から始まり、1日に1ずつ増え、上弦の月で7、満月が14、下弦の月が21で、一周して28=0となります。満月の月相は常に14ですから、わかりやすい反面、月齢と合わないので、混乱の原因になることもあるようです。
Wikipedia の「月齢」で、満月の月齢を
月齢と月相の対応は一定ではなく、例えば、望の瞬間の月齢は13.8から15.8の間で変動する。すなわち、月齢14の日が満月とは限らない。これは月の軌道が楕円であるため、満ち欠けの速度が一定にはならないこと、さらに月の近地点が太陽の摂動により移動していることによる。
としています。
一方、同じWikipediaでも、「満月」で天文の項目では
満月の月相は14である。月齢は月と太陽の角速度が変動するため一定しないが、平均すれば14.8日(±1.0日、13.8日 - 15.8日)である。したがって、月齢0を1日とする暦(大部分の太陰太陽暦と太陰暦)では、満月は平均して16日の朝7時ごろになる(この時刻はどちらかといえば16日の夜より15日の夜に近い)。このため中国暦では伝統的に15日の夜の月が満月とされ、また15日を望日と呼んだ。
としています。
こうなってくると、一度引っ込めた「満月って厳密にどんな状態なの?」という疑問が、再びムクリと起き上がる感じになってきませんか。
え?そう思うのは私だけ?・・・む~~ん。